野次強制排除事件で大きな役割を果たしたと目されている、元首相秘書官で警察庁警備局長の大石吉彦氏(右から2番め)。写真は2017年の秘書官時代 (EPA=時事)
日本は民主主義であったし、今も民主主義である。筆者は、そう考えている。
【参照】⇒
日本は「民主主義」なのか? この時代に生きる我々がすべきこと
しかし、近年になって、
公安警察を含む警察組織や、内閣情報調査室といった情報機関が「党派政治化」しているとすれば、その危険性を指摘しないわけにはいかない。新聞報道や、警察ジャーナリストの著作(※1)を読む限り、警察と内閣情報調査室は、国家の安寧に貢献するという本来の役割を大きく踏み越えて、政治に直接的に関与するようになってきていると思われる。特に、いわゆる「官邸警察派」の影響力の増大と、党派政治へののめり込みがあるとすれば、それは極めて危険である。なお本論考は筆者個人の見解であり、所属する組織の見解ではないことをあらかじめ断っておく。
(※1)時任兼作『
特権キャリア警察官ー日本を支配する600人の野望』(講談社、2018年)、今井良『
内閣情報調査室-公安警察、公安調査庁との三つ巴の闘い』(幻冬舎、2019年)など。
もちろん、筆者のこの判断は、一部の新聞報道や、情報の出どころが不明な雑誌記事に基づくものである。特に、匿名の警察官僚を名乗る人々の発言とされるものを、そのまま鵜呑みにするわけにはいかない。常識的に考えて、その発言が全くの虚偽でないにしても、匿名で組織の内情をジャーナリストに話す者には、彼ら独自の思惑があると考えられるからである。確固たる証拠なしに、匿名の警察官僚によるとされる発言をそのまま信じるべきではないかもしれない。
にもかかわらず、
警察および情報機関と現政権が特に接近しているとほぼ確実に判断できる事例が頻発したのも、確かだろう。次の3つの事件は、読者の皆様の記憶にも新しいのではないか。
まず、日本の有力な情報機関である、内閣情報調査室は、衆議院議員選挙や自民党総裁選において、首相の安倍晋三氏を支えるために積極的に活動した。
朝日新聞によると、内閣情報調査室のある者は、首相の街頭演説のために、それぞれの選挙区について報告書を作成する中で、「我々は政府職員。自民党スタッフではない」と疑問を持ったことがあるという。しかし、これまでの政権でも、内閣情報調査室は選挙関連情報の収集を行っていたと知って、「首相と総裁を明確には区別できない」と割り切り、上司の指示に従っている(朝日新聞2018年7月27日
(自民党総裁選2018 安倍政権の実像:下) 政府も党も、進む「私的機関」化、2019年8月14日アクセス確認)。
ある雑誌記事によれば、総裁選挙にあたって地方党員票を獲得するために地方行脚に出た石破茂氏の行き先を官邸はあらかじめ把握していて、石破氏が会う人を「割り出してこっそり官邸に招き、先回りして首相自ら乗り込み、ビデオメッセージ」を送って、「石破氏支持の芽を細かく潰している」という(「安倍官邸「諜報・盗聴」の怖すぎる実力」『選択』2019年9月号53頁)。