注目のスタートアップだった WeWork の評価はどこで反転したのか?

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コワーキングスペースを提供するベンチャー企業 WeWork の騒動

 9月の下旬から10月の初旬に掛けて、ベンチャー企業 WeWork の名前を多く見るようになった。WeWork はアメリカに本社を置く、コワーキングスペース(共有の仕事環境)を提供する企業だ。お洒落なオフィスに、起業家が集うコミュニティ。最先端のイノベーションを産み出す場として、WeWork は注目されていた。  WeWork の設立は2010年。前身となるコワーキングスペースを提供する企業 GreenDesk は、アダム・ニューマンとミゲル・マッケルビーによって2008年に誕生した。彼らは、その事業を売却して、WeWork を開始した(参照:New York Daily News)。  WeWork は資金調達を続けて規模を拡大し続け、2017年には評価額が200億ドルになった(参照:Forbes)。  企業価値は高騰をし続け、2019年1月には470億ドルになった。しかし、それは実態を伴う数字ではなかった。2019年9月には、100~120億ドルにディスカウントされた。それは、WeWork が調達した128億ドルを下回る金額だった(参照:Reuters)。  同業の IWG は、会員数が5倍で、企業価値は37億ドルである。こちらは売上高が34億ドルで、5億ドルの純利益がある(参照:Vox)。WeWork の2018年の売上高は18億2000万ドル、純利益は-19億ドルである(参照:Crunchbase)。  本来の企業価値はどのぐらいなのだろうか。そして、この赤字が劇的に改善されるのは難しいのではないか。WeWork は2019年の9月末に、上場申請を撤回した(参照:Business Wire)。  日本で、このベンチャー企業の動きが注目されているのは、ソフトバンクが多額の資金を出資しているからだ。100億ドル以上を出資しており、この投資が無駄になると大きなダメージとなる(参照:ロイター/ロイター)。  ソフトバンクと WeWork は資本以外にも提携をしており、2017年には合弁会社 WeWork Japan を設立している(参照:ソフトバンクグループ株式会社)。ソフトバンクと WeWork は、蜜月といえる関係を続けていた。

カリスマCEOによる強引な経営

 WeWork は、どうして実態と評価がかけ離れてしまったのだろうか。同社の社内の様子は、好調な時には、あまり外部に伝わって来なかった。今回、WeWork の評価が大きく下がったことで、醜聞的な記事が書かれて、私たちの目に触れるようになった。  BUSINESS INSIDER JAPAN の記事のタイトルはスキャンダラスだ。 ◆『全社員参加のキャンプでセックス、麻薬三昧…WeWork社内の実態明かす「衝撃の新証言」【前編】』 ◆『性差別、人種差別、サウジ王族との密会…まだまだ出てくるWeWork従業員「衝撃の新証言」【後編】』  これらの記事には、新興宗教の教祖のようにカリスマ的で、暴君でもあるニューマンCEOの様子や、アルコールが絶えないパーティー文化の様子、WeWork Years と呼ばれる長時間労働や高い離職率などが指摘されている。また、上場を目指す企業として、コンプライアンス的に問題があると思われる様子も描かれている。  こうした内情は、急成長するベンチャー企業らしいと言えそうだが、いささか過剰なように思える。  また、ギズモード・ジャパンの「WeWork暴露記事で孫さんピンチ。アダムCEOを更迭か」という記事には、ニューマンCEOの不誠実な経営が紹介されている。  ニューマンCEOは、会社が傾きつつある中、自社株を売り抜けようとしたり、自分でオフィススペース借りて、WeWork に貸し付けたり、商標「We」を創業者2人で買って WeWork に売りつけたりしている。それらは、上場を目指す企業のCEOとしては問題の多い行動に見える。  落ち目になると、こうした記事がどんどん出てくるようになる。そして、9月24日には、ニューマンCEOの辞任が発表された(参照:日本経済新聞)。同社への否定的な記事は、この1ヶ月ぐらいで急速に増えたように感じた。ちょうど、WeWork が上場を目指した頃から逆風が吹いてきたように思える。  こうした評価の急落を見て、それ以前の報道はどうだったかと気になった。以前見た記事は、WeWork を褒めているものが多かったからだ。そこで、これまでの日本での WeWork に対する記事の遷移を見ていこうと考えた。
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メディア報道によるWeWork評価の変遷
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