「水を運ぶ人」から「便をもらう人」へ。鈴木啓太の挑戦

アスリートから便をもらう営業マン

 このビジネスを始めたきっかけは、プロ引退間際の2015年6月、便を調べている人がいると人づてに聞いたことだった。すぐに会いに行き、その人物から最新の研究内容を聞いたところ、その科学的な研究内容は、自身が身体を通じて経験してきた感覚と見事に重なった。 「アスリートの腸内環境を調べると面白いのではないか」と、その場でビジネスの構想が浮かんだという。アスリート時代の経験を多くの人のために生かしたいとの思いを胸に複数のメンバーで事業を立ち上げ、プロ引退後の2016年に代表取締役に就任。  それからはアスリートから便をもらう営業マンに徹した。 「うんち、ちょうだい」がアスリートに会った時の挨拶代わりになったという鈴木氏。なかなか協力者を得られない中で、最初の協力者になってくれたのが、現在、ラグビーワールドカップで連日、大活躍している松島幸太朗選手だった。  鈴木氏の要請に難色を示す松島選手に「将来のため、アスリートのためになるからと半ば強引に押し切った」という。2016年1月のことだ。  その後は、箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた陸上の神野大地選手、プロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの嶋基宏選手などをはじめ、オリンピックの金メダリスト、海外の一流クラブやJリーグに所属するサッカー選手、プロ野球選手など、トップアスリート500人以上から協力を得た。競技はサッカーやラグビー、陸上など、27種目に及ぶ。採取したDNAは共同研究をしている香川大学の専用の冷蔵庫に保存している。
共同研究する香川大/アスリートの検体保管の冷凍庫と鈴木啓太

共同研究する香川大/アスリートの検体保管の冷凍庫と鈴木啓太 写真提供/AuB

大手企業も注目。3億円の資金調達

「トップアスリートの便のデータをこれだけ多く保有する研究機関は国内にはなく、世界でも見当たらない」(AuB社取締役兼研究統括責任者・冨士川凛太郎氏)ことから、オーブが積み重ねてきた腸内環境のデータや知見は、食品分野の大手企業からも注目されており、すでに味噌・醸造品のハナマルキ、和菓子の五穀屋、キノコ生産最大手の「ホクト」などとの共同研究が進んでいる。  資金面では9月に大正製薬と三菱UFJキャピタルなどを引受先とする第三者割当増資で総額約3億円を調達。「AuB BASE」を皮切りにフードテック分野へ参入する。また腸内細菌の特許ビジネスも進めようと、腸内細菌を培養して新菌を発見する取り組みも始めた。
次のページ
便を見れば「やってる競技」がわかる!?
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会