「殺していないのに絞首刑で処刑された人が何人もいる」元死刑囚の免田栄さんが冤罪の怖さを訴える

獄中でずっと私を助けてくれる人がいた

免田さんの六法全書など

免田さんが獄中で使っていた六法全書など(熊本大学展示)

 高峰氏は「免田さんの最初の自白調書では、自分の名前をカタカナで書いていた。文字も十分書けなかった免田さんは、職員から辞書を借り、贈られた六法で、法律を学んだ。再審のことを教えてくれたのも受刑者だった」と述べた後、獄中での闘いについて聞いた。免田さんは次のように答えた。 「1949年1月に逮捕され、投獄されたが、苦労するばかりではなく、獄中でずっと私を助けてくれる人がいた。そういう人たちと運動の時間などに話をしたり、うなずき合ったりしていた。  言葉にもなって出ることもあった。それが偶然にも再審無罪につながった。努力して希望を持つという気持ちを持たなければ遠い昔に処刑されていたと思う」  免田さんはまた「自分に不利な判決が出た時に、社会ではその判断は正当とされる。本人は正当だと思っても思わなくても、そうなる。人間の弱さを感じる。それに負けずに努力してきたつもりだ。裁判の過ちが冤罪を引き起こす。本当に不備のない法治国家にしてほしい」と訴えた。

処刑された人たちの顔が脳裏に浮かんでくる

 日本では1983年から84年の約1年間に、免田さんのほか、谷口繁義さん(財田川事件)、斎藤幸夫さん(松山事件)、赤堀政夫さん(島田事件)が死刑台から生還した。免田さんは冤罪の怖さについてこう話す。 「残念なことだが、拘置所の中で、約70人の死刑囚を見送った。私はたまたま再審が決まり、無罪を勝ち取って社会に戻ることができたが、人を殺していないのに、殺したということで処刑された人が何人もいる。  その一人一人の方の目、顔が今も脳裏に浮かんでくる。死刑囚には(牧師、僧侶などによる)教誨の時間があるが、その教誨の後に、『自分はやっていない。どうにかならないか』と言われたことがあった。  私は運よくチャンスが回ってきて、再審無罪になった。運のいい人と悪い人がいる社会だ。これから残る人生、運によって人生が決まるようなことがないように、新しい民主主義の社会を作るために、自分の経験を生かして努力したい。これからも仲間に入れていただきたい。  私は自然の摂理を大切にしたい。私は不幸中の幸いの男だ。私を支援してくれた人たちのご恩を忘れず、これからも頑張りたい」
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望むのは「冤罪のない社会」
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