さらなる大規模投資特重施設(特定重大事故等対処施設)
日本の原子力発電所は、福島核災害までは、
多重防護*の第四層と第五層が存在しないために原子力安全という視点では
世界の趨勢に比して著しく見劣りがする代物でした。そのため福島核災害では、過酷事故に足して全くなすすべが無く、様々な偶然が無ければ更に深刻な事態に陥り、
原子力委員会最悪予測(
福島第一原子力発電所の不測事態 シナリオの素描)によれば、首都圏の三千万人が核災害難民となることが予測されました。
<*多重防護5つの段階については、
「北海道胆振東部地震『泊原発が動いていれば停電はなかった』論はなぜ『完全に間違い』なのか」P2を参照>
この報告書は、余りにも恐ろしい内容なので「無かった」ことにされ、隠蔽されましたが、菅直人元首相がその存在を明かし、情報公開請求によって日の目を見て、多くの人が知ることになりました*。
<*
「福島第一原子力発電所の不測事態 シナリオの素描」のGoogle検索結果>
これを教訓に多重防護の第四層を法整備したのですが、それが
「特定重大事故等対処施設」(特重)です。なお、多重防護の第五層=住民保護・原子力防災は事実上存在しません(形骸的には存在する)。
特重施設は、多岐にわたりますが外からよく見えるのは第二制御室や非常用電源の追加、水源の追加、第二動線の整備などがあります。これらは航空機突入やテロール対策として原子炉から100m前後離されていますので、敷地が狭く地形の悪いPWR原子力発電所では土地造成から行わねばならず、たいへんな大工事になります。
高浜発電所の場合、1,2号炉を廃炉にしないために敷地の余裕が全くなく、結局山の裏側に新たに敷地造成していますが、導線二つの啓開を含めて
莫大な工事量となっています。この特重工事の遅れは操業中の全原子力発電所できわめて深刻な状況となっており、最低1年の期限超過は確実ですが、現状では2年3年と超過する可能性が濃厚です。
勿論、期限を越えた場合は、その原子力発電所には原子力規制委員会(NRA)から停止命令が出され、操業中止となります。
このことでは、今年四月から五月にかけて電力各社がNRAに泣きつき、財界もお目こぼしを要求しましたが、NRAは断固として拒絶、この点でのなれ合いの可能性は無くなっています。
関電は、大飯3,4、高浜3,4という優れた原子炉を保有していますが、美浜1,2,3 、高浜1,2というかなり旧式の高経年炉と大飯1,2という受動安全性の低い商業的には失敗した炉(合衆国を含め採用例は少ない)を抱えています。このうち小型の美浜1,2と、運転コスト高に悩まされた大飯1,2を廃炉にしたことは優れた判断ですが、
美浜3、高浜1,2を諦めなかったことは重大な判断ミスと言うほかありません。
結果として当初の関電の見込みでは数千億円であった投資は、すでに
一兆円を超えており、さらに一兆円追加となる可能性も十分にあり得ます。まさに「原子力3倍ドン、更に3倍ドン」*という最悪の事業費増加になる可能性があり得るのです。
<*原子力、費用三倍則と言い、経験的に原子力、核事業は、当初見積もりの三倍の費用がかかることが多い。とくに原子力船むつ、もんじゅ、核燃料サイクルなど、3倍の3倍で10倍近くに費用が膨らみ、事業失敗することが多々ある。著者は、これを“巨泉のクイズダービー”にたとえて、「原子力3倍ドン、更に3倍ドン」と命名している。福島核災害では、「原子力10倍ドン、更に10倍ドン」と言うレコード達成は確実であろう>
このような無謀な投資を関西電力が行っている理由が私には、まったく分からず、不思議で仕方ありません。意地でやっているにしても、責任逃れでやっているにしても規模が大きすぎます。
そういった中、まさに深刻な問題案件の高浜発電所の立地自治体である高浜町を舞台とした長年にわたる関電幹部社員、役員への大規模な資金還流が発覚しました。
これは特別背任の可能性もあるきわめて重大な企業犯罪案件となり得るわけですが、仮にそうであれば原子力安全の根幹を揺るがす事態です。
今後の捜査の進展を注視するほかありません。
この記事は次回、美浜発電所についてご紹介します。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』「トリチウム水海洋放出問題」緊急特集・関西電力資金還流問題編1
<取材・文・撮影/牧田寛>