死因は「エイのトゲが刺さった」から? それでも変わらぬ沖縄ジュゴンの「絶対的な危機的状況」

腹部にエイのトゲが刺さり、苦しむ声が記録されていた!?

ジュゴンの尾ひれ

死亡した個体Bの尾ひれ(北限のジュゴン調査チーム・ザン提供)

 沖縄県今帰仁村(なきじんそん)の漁港で今年3月に死骸で見つかった、天然記念物のジュゴンの死因が7月29日に発表された。解剖を実施した環境省・沖縄県・今帰仁村の共同資料によると、「オグロオトメエイのトゲがジュゴンに刺さって腸管が破れ、腹腔内の状態が悪化して死に至った可能性が極めて高い」との結論だった。  死んだジュゴンは「個体B」と呼ばれ、沖縄で生息が確認されていた3頭のうちの1頭で、唯一のメスだった。資料によると、体長は290cm、体重は約480kg。年齢は不明で、妊娠はしていなかった。過去には子どものジュゴンと泳ぐ姿が目撃され、地元のジュゴン保護団体のメンバーからは「B子母さん」と親しみを込めて呼ばれていた。  防衛省の地方組織である沖縄防衛局の調査では、死骸で発見される4日前の3月14日、生息していた古宇利島沖でジュゴンの鳴き声が10時間近くにわたって記録されていた。「B子母さん」はエイに腹部を刺された後、痛さのために鳴き声をあげてのたうち回り、人知れず息絶えたのだろうか。想像するだけで胸が痛む。

7名の専門家により、5時間に及ぶ解剖が実施

 ジュゴンの解剖結果を聞いてまず「よかった」と思ったことは、「死因究明を目的にした解剖」が実施された点だ。なぜならば当初、解剖は今帰仁村が「沖縄美ら島財団」に依頼して死因究明にあたるとされ、ジュゴンの解剖費として村議会が可決した補正予算(18万5000円)には「死因究明」の文字はなく「ジュゴン標本化事業」となっていたからだ。  また、ジュゴンの解剖には7名の専門家があたったこともわかった。獣医師が沖縄美ら海水族館を運営する「沖縄美ら島財団」から3名、国内で唯一ジュゴンを飼育展示する「鳥羽水族館」(三重県)から2名、「国立科学博物館」(東京・上野)から1名、そして京都大学准教授により、5時間に及ぶ解剖が実施されたという。  解剖にあたった専門家の名前は記載されていないものの、獣医師が6名も関わったということであれば解剖結果も信頼できるものと思われる。死因の説明として「エイのトゲがジュゴンの体の右側から右腹壁に貫通する孔(あな)から入り、腸の運動などと連動して腹腔内を60cm移動して左腹壁の筋肉に到達したと考えられる」と、詳細も記されている。
ジュゴン解剖結果についての報告

「ジュゴン死亡個体の解剖結果について(報告)」(環境省沖縄奄美自然環境事務所・沖縄県・今帰仁村同時発表、2019年7月29日)より

 解剖に先立つ6月、名護市の市民団体「北限のジュゴン調査チーム・ザン」と今帰仁村住民有志は、環境省・沖縄県・今帰仁村に、専門的な解剖を実施するよう二度にわたって求めていた。要望書には解剖工程や執刀者の開示に加え、解剖費用内訳の公表も含まれていた。  ジュゴンの死と名護市辺野古の新基地工事との関係が指摘されてきただだけに、「ジュゴンが死んだ理由をうやむやにしてはいけない」という市民の願いと要請は、専門的な解剖の実現にある程度の影響を与えたはずだ。
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明らかになった死因の一方で残る疑問
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