ライブハウス、楽器店、語学教室…渋谷再開発で「文化発信拠点」は何処へ移転した?

新たな再開発で「再移転」も?

 しかし、新たな「再開発の波」は移転先となったエリアにも容赦なく襲ってくる。2023年度に予定される桜丘1期開発地区の完成後には、その西側で2期再開発「ネクスト渋谷桜丘地区市街地再開発事業」が開始される。そのため、「イケベ楽器プロショップタワー」をはじめ、1期再開発地区から移転した店舗の多くが2期再開発地区にかかってしまい、数年後には「再移転」を余儀なくされてしまうことになる。  桜丘地区周辺への移転を決めた30店舗のうち、2期再開発地区に含まれており「再移転」となることが確実な店舗はなんと23店舗。イケベ楽器も「プロショップタワーは2020年までの期間限定営業」としており、それ以降は再移転となる。2期再開発地区の再開発準備組合が設立されたのは昨年11月であり、2期計画を知らずに開発地域内へと移転した店舗もあるようであったが、2期開発は約4年以上先のことであり、調査した限りでは「2期開発開始後の明確な移転先を決めている」という回答が得られた店舗はなかった。
桜丘1期再開発の完成後イメージ

桜丘1期再開発の完成後イメージ(出典:東急不動産)。
回遊デッキが整備されるため、桜丘町周辺の開発区域外へのアクセスも大きく向上する。

 また、永年再開発とは無縁だった道玄坂についても再開発の波が迫ってきている。2017年末にはドン・キホーテグループが東急百貨店近くの旧「ドン・キホーテ渋谷店」とその周辺一帯を再開発し、ホテルや商業施設を核とする超高層ビルを建設する計画を発表。さらに、向かいの東急百貨店も大部分が1967年に建設された建物であるため老朽化が進行しており、近い将来再開発がおこなわれる可能性もある。
ドンキ主導の再開発も予定

道玄坂地区の入口にあった「ドン・キホーテ渋谷店」の旧店舗一帯では大型再開発がおこなわれる。
現在、この旧ドンキの建物は解体されている。右側に見えるのは東急百貨店。

 桜丘や道玄坂では、再開発地区外においても再開発地区の完成後には地価・家賃が高騰することが予想される。道路が狭く古い建物が多いため、防災面での不安があるエリアも多く、数年後には再び新たな「街が一変」するような大型再開発計画が持ち上がるかも知れない。
ドンキ再開発

ドン・キホーテグループが計画する道玄坂の大型再開発(出典:ドン・キホーテグループ)。
ライブハウスが集積する一帯はこの建物のちょうど裏側に当たる。

オフィスは半数が「都心」へ-「企業インキュベーションの地」にもなっていた桜丘

 さて、ここまでは渋谷エリア内へと移転した店舗について触れたが、再開発を機に「渋谷の街から離れる」という決断をした事例も少なくなく、67店舗中16店舗がそれに該当した。  とくに渋谷の街から離れた店舗が多かった業種はオフィス・サービス関連だ。今回移転先が分かったオフィス・サービス関連16店舗(16社)のうち、渋谷エリアに残ったものは5店舗のみで、多くが渋谷から離れることとなった。そのうち、約半数の6店舗が渋谷から3~5キロメートルほど南の「恵比寿・目黒」方面に移転。残りの5店舗は、新宿や丸の内など、利便性が高い「都心エリア」への移転となった。  それに対して、音楽・趣味・教育関連の店舗では渋谷を離れたものは少なかった。渋谷を離れた店舗の例を挙げると、ヤマハ運営の音楽ホール「ヤマハエレクトーンシティ(旧ヤマハエピキュラス)」が目黒区下目黒に、プロミュージシャンを顧客に持つ有名ギターショップ「G’ Seven Guitars」が新宿区曙橋に移転している。
桜丘の渋谷駅側・玉川通り沿いの風景

桜丘の渋谷駅側・玉川通り沿いの風景。
このエリアには大型オフィスビルも多くあったが、これらも現在は解体中となっている

 調査の全体を通してみると、「飲食店」は「桜丘残留」を、そして「音楽・趣味」など文化発信拠点というべき店舗はある程度分散したものの桜丘を含めた「渋谷周辺エリアに移転」を選んだ店舗が多い。一方で、「オフィス・サービス業」については渋谷を離れる選択をしたものが多かった。オフィスのなかには、桜丘で成長を遂げて都心エリアへと移転したとみられるものもあり、渋谷のなかでも比較的地価・家賃が安い桜丘が「文化発信拠点」のみならず「企業インキュベーションの地」としても機能していたことが伺える結果となった。
桜丘口1期再開発により移転となった店舗の移転先

今回の調査結果をまとめたもの。
桜丘から移転を決めた店舗の「地区別」店舗数。(筆者作成)

未だに移転先が決まらない「人気ライブハウス」も…

 さて、移転先が判明した67店舗以外にも、取材を行った時点で移転先が発表されておらず、営業を継続しているのかどうか分からなかった店舗、そして、移転先を見つけることができず「当面のあいだ休業」を発表している店舗もいくつかあった。  その1つが、新人バンドの登竜門として知られた人気ライブハウス「渋谷club乙-kinoto-」だ。  次回以降は、この「渋谷club乙-kinoto-」をはじめとして、多くが「消滅の危機」に直面しているという「桜丘のライブハウス事情」に焦点を当てていきたい。 <取材・文・撮影・図版作成/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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