妻に「モラハラ夫」呼ばわりされているうちが、更生の最後のチャンスである<モラ夫バスターな日々28>

漫画/榎本まみ

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<28>

 先日、仙台在住の男性から私の事務所に電話があった。私が名乗ると男性は、「モラ夫の記事、書くのやめろ」と唐突に要求した。  私が理由を問うと、男性は、「妻が、俺をモラ夫モラ夫ってうるさい」と説明した。  なるほど、この連載を読んだ妻が、自らの夫がモラ夫であることに気づいたのだ。この男性は、この連載が終われば、妻が大人しくなると思ったのだろう。

モラ夫の最大の異常さは、精神医学上「正常」である点

 ところで、日本の男性は、どのようにモラ夫になるのか。  従来、モラ夫には、人格障害、愛着障害など何らかの障害があると主張されてきた。  モラ夫を「発見」した、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌは、モラ夫を「自己愛的変質者」と断定している。日本の医療職、心理職の専門家たちも、論者によって指摘する障害は異なるものの、何らかの障害をモラ夫の原因とする者が多い。  私は、多数の離婚案件を通じて、モラ夫を観察してきた。確かに、人格障害、愛着障害等が強く疑われるモラ夫もいる。しかし、圧倒的多数のモラ夫たちは、正常に社会活動を営み、職場では優しい男性、物分かりの良い男性と評価されていたりする。  モラ夫に何らかの精神的問題があると考えて、精神科医の診断を受けさせる妻もいるが、私の実務経験の限りでは、精神科医が何らかの障害等を診断した事例は知らない。家庭では、まるで自己愛性人格障害者のように振る舞い、日々、妻をイジメているにもかかわらず、モラ夫たちは、精神医学上、「正常」なのである。  日本のモラ夫たちの言動は、どこかのモラ夫工場で生産されているのではないかと妄想する程、類似している。夫によるモラハラが、社会的文化的背景に起因するから、類似するのではないか。  日本のモラ夫たちは、家庭において、妻や子に対する支配者として振る舞い、感謝や尊敬を要求する。妻に対しては、何を言ってもいい、何をしてもいいと言わんばかりの態度をとる一方、妻が意見すると「反抗」とみなし徹底的に弾圧する。  これは、支配者としての振る舞いであり、(文化的規範としての)イエ制度、男尊女卑、性別役割分担など日本の文化的社会的規範群にその原因があると考えてよいと思う。
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「モラ夫」文化が日本の結婚を不幸にする
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