ワイマール憲法も「そんな独裁者が現れるわけがない」という性善説で国家緊急権を設け、ナチスに悪用された。明治憲法下でも国家の非常事態の名目の下、国家緊急権が濫用された。このような歴史を踏まえ日本国憲法は、あえて国家緊急権を設けなかった。
現政権や自民党が、どんな状況を緊急事態とし、それを宣言したときにどのような政治を行いたいと考えているのかは、不明である。
彼らは口々に「大地震などの災害」という言葉で、あたかも自然災害のケースのみを緊急事態として想定しているように喧伝している。大災害を何度も経験してきた地震国家日本において、自然災害対策はほとんどの国民が気にかけることであり、そのために必要だからと言われれば、受け入れられやすいに決まっていよう。
しかし、地震などの自然災害には、「法律を整備」することで対処しようというのが日本国憲法の趣旨だ。災害時に非常事態条項さえあれば何でも解決するように宣伝されているが、災害対策に必要なのは過去の災害を検証し、これに基づいて
将来の災害に備えて効果的な対策を準備することである。憲法の改正ではない。
今回は2018年の「改憲4項目」を前提に、おもに自然災害を想定した場合に「緊急事態条項」が必要か否かについて考えた。結果、自然災害のケースに絞ったとしても、現行憲法と各法律で、十分対処可能であることがわかった。
しかし、緊急事態条項については、まだ検証が必要だろう。特に2018年の「改憲4項目」では隠された、自然災害以外の「武力攻撃や内乱」のケースに着目して検証する必要がある。が、今回はここで紙幅が尽きたようだ。さらなる検証については、別の機会に書こうと思う。
<取材・文/林夏子 取材協力/永井幸寿>