また、17年5月の「講話」の演題「
激動する世界と日本の進路」の学生によるレポートには〈日本だからこそできる国際貢献、正しい歴史観に基づき、日本人の寛容さとその価値観を発信していく重要性をご指摘いただきましたことは、日本人としての誇りを強く再認識させられ、本校学生・職員にとって大変意義深いお話となりました〉などとあります。
歴史否認派の櫻井氏が言うところの「
正しい歴史観」とはなんなのか。その歪んだ「歴史観」を植え付けられた自衛官が考える「国際貢献」がどういったものになるのか。従来の櫻井氏の主張を鑑みるに、たとえば特攻隊という無謀かつ非人道的な作戦を考案した日本海軍幹部の責任を問うことなく、ひたすらその死を美化する*ごとき発言がなされたのではないかとの疑念が拭えません。
<*たとえばこちらのコラム。「
命を賭して先人が守った祖国 思いを受けるに足る私たちか」|櫻井よしこ公式サイト>
もう一度言います。
ただの講演会ではないのです。講師が語りかける相手は、
命を落とす可能性がある隊員たちに命令を下す立場になるかもしれない未来の”上級の部隊指揮官又は上級幕僚”です。リストアップした講師のような
対外強硬論者、日本軍が起こした戦争を美化する歴史否認論者が、自衛隊の幹部学校で累次にわたって「講話」をするということが何をもたらすか。そのことを想像力をもって考えれば問題の深刻さは明らかでしょう。
後述するようにかつての「
田母神問題」(特に「歴史・国家観」講座の問題)の経緯から考えても、人選の時点ですでに「アウト」だと言えますが、櫻井氏・門田氏に限らずすべての講師の講話内容を海幹校は明らかにすべきです。
櫻井氏に限らず、リストアップした言論人の歴史認識、国家観は、あの「田母神問題」で露呈した航空幕僚長にして元統合幕僚学校校長でもあった田母神俊雄氏のそれと根っこの部分は同じだと言えるでしょう。田母神氏は
「歴史・国家観」講座を統合幕僚学校学校に新設、
講師は「新しい歴史教科書をつくる会」ゆかりの人物ばかりでした。国会で追及を受けた防衛省は、
「歴史・国家観」講座の中止を表明、政府は「極めて遺憾なことと考えており、このようなことが再発することのないよう努めてまいりたい」*と約束したはずでした。しかし「再発」どころか
少なくとも12年以降、今度は海上自衛隊幹部学校を舞台に、繰り返し右派的な歴史観・国家観・道徳観の注入が施されていたのです。
イラク日報問題で露呈した
シビリアンコントロールの機能不全、「
自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるのであれば非常にありがたい」となどと放言しながら何の処罰も受けなかった前統合幕僚長・
河野克俊氏(現・防衛省顧問**)、 野党議員に暴言を浴びせた航空自衛官。そしてこの度の海幹校の「特別講話」で施されている右派言論人による幹部教育。「いったい自衛隊はどうなっているのか」「誰のための自衛隊なのか」と思わせる事案が絶えません。
一方で、「ありがとう自衛隊」キャンペーンを実施しつつ、同時に自衛隊明記の「改憲」を主張する右派運動。そしてその運動の中心あるいは周辺に、ここでピックアップした言論人の存在があります。そうした全体の構図を考えれば、いかに現在の改憲論議が危ういものであるかは明白。やるべきことは先にあります。まず海幹校特別講話の全容解明、そして今度こそは自衛隊のあり方を根本から見直すことが必要なのではないでしょうか。
メディアによる報道、来る臨時国会での徹底追及を望みます。
<*統合幕僚学校「歴史・国家観」講座の問題については下記を参照。
・
自衛隊統幕学校講座で 「つくる会」正副会長が講師
・
自衛隊幕僚学校「歴史観」講座を中止
・
「政府見解と異なる歴史認識を発表し更迭された前航空幕僚長に対する防衛省の任命責任等に関する質問に対する答弁書」>
<**
統幕長「憲法明記ありがたい」発言、菅長官「問題ない」:朝日新聞デジタル、
防衛省発令>
※本記事執筆にあたりSNSなどで多くの方に情報提供などご協力いただきました。ありがとうございます。
<文/赤菱耕平>