改憲派論者が多数登壇していたことがわかった 海上自衛隊幹部学校の特別講話
海上自衛隊の「最高学府」であり、シンクタンクでもある海上自衛隊幹部学校(以下、海幹校*)の「特別講話」にて、驚くべき事実が判明しました。以下に報告します。
<*海上自衛隊幹部学校。略称「海幹校」。詳細は公式HP「概要」欄を参照。「海上自衛隊の最高学府」であり、「上級の部隊指揮官又は上級幕僚としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得」、また「シンクタンクとして、安全保障政策の立案並びに海上防衛戦略及び防衛構想の策定に寄与し、「戦略」「作戦」「国際法、国内法」「戦史」等に関する調査研究を実施」とある>
なにはともあれ、まずは
海幹校の公式ページ「教育課程>特別講話」にある講師陣とその内容をご覧ください。
2018年度分の講師陣。この他に、2012年まで遡ってみることができる
現在、2012年まで遡って閲覧することができますが、一見して目を引くのは、ずらりと並んだ
櫻井よしこ氏、門田隆将氏、田中英道氏、平川祐弘氏、竹田恒泰氏、曽野綾子氏など、目がくらむような右派言論人の面々です。
「特別講話」のページに名前がある「右派」講師たちとその演題
※は演題の記載がなかったため、レポートから講話の内容がうかがえる箇所を転記
12年から毎年招聘されている櫻井氏が、小笠原雅弘氏(NEC航空宇宙システム)とともに最多の8回。辻哲夫氏(元厚生省、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)もこの秋招聘されればこれに並びそうです。
続いて門田氏と並んで歌舞伎役者の片岡孝太郎氏が6年連続となりますが、片岡氏が12〜17年までなのに対し、門田氏は13年から昨秋までの6回なので、今秋には7年連続となるのかもしれません。
もっともこのサイトに12年から実施されたすべての「特別講話」が掲載されているのかどうかは不明ですので、「現在のサイトの状況から読み取れる範囲で」という限定つきです。
講話によっては聴講した学生による簡単なレポートが付されているので、話者の日頃の言動と照らし合わせることで、どのようなことが語られたのかはおおよその見当がつきます。すべてというわけにはいきませんが、いくつか見てみたいと思います。
内容以前に人物選定のそのものの不適切さを指摘することが本稿の趣旨なので、それぞれの人物像については一言ずつコメントしました。人によっては指摘すべき重要な事実が他にあるのでは?というケースもあるかもしれません。重大な“見落と”があれば対応を検討いたしますので、ご教示いただければ幸いです。
櫻井よしこ氏については後述するとして、まずは
門田隆将氏から見ていきましょう。
門田氏といえば、5月のトランプ大統領来日時、NHKの相撲中継で全国に放映されたトランプ大統領との握手シーン*は、安倍首相との距離の近さを象徴する場面として記憶に新しいところ。同じく熱烈な安倍支持者として知られる金美齢氏、そしてやはり櫻井氏も含めた3人(実際には同行者は4人)が、来日中の第45代米国大統領・トランプ氏と握手を交わし歓喜する様子が、多くの視聴者を驚かせました。あの握手は、安倍総理の誘導によって実現したものであることを毎日新聞のカメラは見事に捉えていました。
本人としては「そもそも私は安倍親衛隊ではない。常に是々非々で、安倍政権の大批判もしている」(毎日新聞)という設定のようです。
しかし、門田氏が「日本の宝」とまで称揚する櫻井氏との関係**に着目すれば、安倍総理との関係もそれほど距離があるとは思えません。
<*
トランプ氏握手の作家ら「ご招待」? 桜井よしこ氏ら 「打ち合わせなし」|(毎日新聞)>
<**
「櫻井よしこ」は日本の宝 (月刊 WiLL) | オピニオンサイトiRONNA>
門田氏の18年11月19日の「『新潮4545』休刊騒動が示したマスコミの岐路」は、学生レポートが掲載されています。
〈「言論・表現の自由」について、読者側の「自由な思想空間」が侵されているという、問題の本質をつかれたご指摘は、本校学生・職員にとって非常に啓蒙されるものであり、大変意義深く、得難い機会となりました。〉
ここでの門田氏の主張はその2ヶ月前に書かれた門田氏のブログ「
『新潮45』休刊で失われたのは何か」の内容と重なる内容だったと思われます。
読者だけでなく作家や出版業界からも非難の声が上がり、雑誌『新潮45』が「休刊」するに至った一連の問題について詳述はしませんが、 ことの発端は、同性カップルを念頭に「『生産性』がない」などと主張した自民党国会議員・杉田水脈氏の寄稿、「LGBTを『ふざけた概念』」としたうえで、LGBTと痴漢を同列に論じ、「性的マイノリティ」に対する無知・無理解、誹謗を重ねた評論家・小川栄太郎氏の論文でした。そして、門田氏もブログで両名をアクロバチックに擁護(ブログに出てくる「杉田美脈」というのは別人なのかもしれませんが)しているわけです。杉田氏についての「安倍系列の政治家」という的確な表現はさすがですが、杉田氏、小川氏、門田氏、すべてひっくるめて「安倍系列」なのでは?思うのは筆者だけではないでしょう。
また、遡って14年に行われた「朝日報道とジャーナリズムの行方」という「講話」から推測されるのは、年間を通じて、そして今も事あるごとに継続されている右派の猛烈な「朝日新聞バッシング」における言説でしょう。
この年、「吉田調書」「吉田証言」を巡って繰り広げられた「朝日新聞バッシング」は、もう一つ、ドサクサ紛れに
「慰安婦」問題そのものを消し去ろうとする右派の邪悪な動機から放たれたものです。すでに福島第一原発の吉田所長についてのドキュメント小説を書き、「日本を救った男」とまで吉田所長を称揚する門田氏が、「命令に違反」「撤退」などの言葉を用いた朝日新聞のスクープ(14年5月20日)に噛み付いたのも当然の流れでした。ところが、門田氏は原発事故報道の検証記事の中でさえも、「日本を貶めたい朝日」という妄想的な理路から、話題を「慰安婦」報道における「吉田証言」報道とその取り消しの件にまで飛躍させ、朝日新聞の「慰安婦虚報」などとという言葉を用いながら、歴史否認言説を繰り返しすという、実に乱暴な主張を各所で行っています。
しかし、そもそも歴史研究者たちが証拠としては採用すらしていない「吉田証言」を新聞社が取り下げたところで、史実としての日本軍「慰安婦」制度が消滅するはずもありません。ましてや原発事故調査における「調書」の記事取り消しが歴史問題と全くリンクもしないことは明白なのですが、「朝日さえ貶めれば」という動機が消えない限りは何度でもやり続けるのでしょう。
次に、
田中英道氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の元会長。竹田恒泰氏とともに「日本国史学会」(代表理事・田中)の4人の発起人として名前を連ねる人物です。ちなみに残り2名は小堀桂一郎氏、中西輝政氏という右派の“大御所”)。
20世紀の終末から開始され2000年代に苛烈を極めた「
ジェンダー・フリー・バッシング」の論客の一人で、頑迷な「フランクフルト学派陰謀論」*者。昨年刊行された「国際勝共連合」の雑誌『世界思想』のインタビュー「20世紀支配したマルクス主義が家族破壊へ変容」にていまだにその論を展開しているから驚き(!)。
<*フランクフルト大学および同大学社会研究所 (1923設立) に所属する T.アドルノ,M.ホルクハイマー,M.マルクーゼ,J.ハバーマスらを中心メンバーとした一学派「フランクフルト学派」。この学派が右派の嫌う反戦運動、差別撤廃、フェミニスム、ジェンダーなどの”諸悪の根源”とする陰謀論>