石破茂氏 (撮影/菊竹規)
日韓関係が「戦後最悪」と呼ばれるほど悪化している。
昨年来、徴用工問題をはじめとする様々な問題で対立を深めてきた。この事態を受けて、安倍政権は韓国に対して半導体の輸出規制や「ホワイト国」(ゆすつ管理優遇措置対象)除外に踏み切ったが、韓国の文在寅政権も同様の措置で対抗。日刊の対立は泥沼の報復合戦に陥り、関係改善の兆しも見えていない。いや、日本のメディアはいたずらに嫌韓感情を煽るような報道を続け、それに伴い日本国民も嫌韓感情を高まらせている。
だが、一度立ち止まって冷静に考える必要がある。
保守系論壇誌『月刊日本』9月号は、この状況に対し、「そもそも日韓対立は日本の韓国併合に端を発するものであり、その道義的責任から目を背ける限り、日韓の対立は永遠に続くだろう」と継承を鳴らしている。
安全保障問題、経済問題にも大きく影を落としかねない日韓の対立について、同誌は「日韓の対立を憂う」として第2特集を組んでいる。今回はその特集から、石破茂自民党元幹事長へのインタビューを転載、紹介したい。
―― 現在の日韓関係をどう見ていますか。
石破茂氏(以下、石破):日本と韓国はお互いに引っ越しができない隣国であり、北東アジアで自由や民主主義という価値観を共有する国同士です。その日韓の関係が悪化している現状は、両国のみならずアジア全体にとって不幸なことです。
いま日韓両国内では相手国に対する世論が非常に厳しくなっています。私が参院選で全国を回っていた間も、「韓国はどうしようもない。もう放っておけ」という国民の声をひしひしと感じました。しかし政治家はそれをそのまま相手国に届けてはいけません。日韓関係の悪化はわが国の安全保障や経済の問題に直結するのであり、政治家まで国民と同じように感情をぶつけてしまえば、事態はエスカレートするしかありません。そして外交交渉に失敗した場合、不幸になるのは国民なのです。
すでに実害も出ています。私の地元では、ある経営者が「10年かけて韓国企業と交渉してやっと取引まで漕ぎつけたのに、日韓対立の煽りをうけて全て白紙に戻ってしまった。10年間の努力が水の泡です」と嘆いていました。
日韓両国の政治家は、このように
「対立は両国の国民を不幸にする」ということを絶対に忘れてはなりません。お互いに「これ以上の悪化は避けなければならない」という共通認識を持った上で、偶発的衝突の回避などのリスクマネジメントに取り組まねばなりません。
最大のリスクは自国内の
偏狭なナショナリズムと過度なポピュリズムです。一般論として為政者はナショナリズムが高揚した場合、それを都合よく利用するポピュリズムの誘惑に駆られます。しかし一度その劇薬に手を出すと、いざブレーキをかけようと思っても止められなくなります。その結果、国民は必ず不幸になるのです。
日韓どちらにあっても、国内における対立と分断が深刻化しつつあります。国内情勢についての不安がナショナリズムやポピュリズムにつながり、日韓関係に悪影響を及ぼしている部分もあるのではないでしょうか。ここで思い出すべきは、金大中・小渕恵三両首脳の時代です。当時の日韓関係は非常に安定していましたが、それは両国の国内的安定にもとづくものでした。金大中政権では革新派と保守派がそれぞれ大統領(金大中)と首相(金鍾泌)を分担し、韓国国内の保革融和が図られており、日本でも小渕恵三総理が自民党の伝統である「寛容と忍耐」を体現し、自民党のみならず野党や国民に心を配って国内融和が図られていたのです。ですから、内政の問題を外交に転嫁するような誘惑に駆られることもありませんでした。