―― 日本は正しいか間違っているかを抜きに、韓国が何に怒っているのかを理解する必要があります。
石破:まず、今般の輸出管理の変更については、本来は徴用工問題とは何の関係もなく、また関係づける必要もないものでした。あたかも徴用工関連判決と関係があるように取られかねない言い方をしたところから、ボタンのかけ違いが続いており、極めて残念です。
そのうえで敢えて歴史問題に触れるとすれば、旧大日本帝国が1910年に韓国を併合したことにより、長い朝鮮の歴史を受け継ぐ大韓帝国は消滅し、朝鮮民族は独立を失った。この経験が韓国の人々にどれほどの負の感情を抱かしめたか。我々は国家や文化を奪われた人々の心情を決して忘れてはならないと思います。
過去、「日本は韓国に良いこともした」と言って更迭された大臣がいました。旧帝国がどれほど朝鮮で教育制度を敷こうと、食料を増産しようと、公衆衛生を向上させようと、インフラを整備しようと、その国に生まれた人々には独立心や愛国心がある。民族の誇りがある。それを奪われた傷は、決して癒えるものではないのでしょう。今でも旧帝国時代の話はデリケートで、先般日韓の会合があった折も「その話題は韓国の出席者が激怒して会合そのものが中止になりかねません」と言われました。この時、私は改めて「まだまだ韓国の心情の複雑さを理解できていなかった」と気づかされました。
ですから自戒を込めて言うのですが、われわれはあまりにも韓国のことを知らなすぎる。あるいは、韓国のことを知ろうとする努力が少なすぎる。それゆえ誤解が誤解を呼び、すれ違いにすれ違いを重ね、必要以上に関係が悪化しているのではないか。そして逆もまたしかりです。
これまで日本は「韓国の言うことは間違っている」と主張してきました。しかし、そこには「どうして韓国はこういうことを言うのか」という理解が欠けていたようにも感じます。韓国の言い分の背景を理解した上で日本の立場を主張するのか、それをせずに日本の立場を主張するのか。この二つは結論は同じでも韓国に対する向き合い方が全く違います。
われわれは日本の立場を主張し、韓国の誤りは正すべきです。しかし、本当の意味で韓国と向き合っていなければ、たとえそれが正論であったとしても、相手には伝わらないのではないか。そして韓国と向き合うとは、韓国のことを知ることに他なりません。私も改めて韓国のことを勉強し直していますが、「これも知らなかった、あれも知らなかった」ということばかりで、自らの不勉強を恥じています。
日本から見ても立派な韓国人はいます。韓国から見ても立派な日本人はいます。そうやってお互いに信頼し合える個人と個人の関係をどれだけ作れるか。政府同士が対立しても、個々の議員と議員、国民と国民の絆がなくなるわけではない――10年、20年、50年かけてでも、そういう人間関係を築いていく努力だけはやめてはなりません。
(聞き手・構成 杉原悠人)