―― しかし、自民党内では「国交断絶」などと強硬論が飛び交っていると報道されています。
石破:私は関連部会に出席していませんでしたから、直接には聞いていませんが、一般的に政治家は世論に敏感ですから、世論が強硬になれば党内でもそういう雰囲気が強まります。それはある程度仕方のないことですが、政治家には世論に流されてはならない時があるのも事実です。
正直、世論に水を差すような言動は国民にウケません。むしろ「弱腰」「売国奴」などと反発をうけます。私も「韓国の回し者か」とか「実は韓国人だろう」などと言われることがあります。昨年韓国で地方創生について講演した際も、某社の新聞記者から「なぜ領土問題を論じなかったのだ」とつめ寄られ、そのことを記事にもされました。
このように、日本で「親韓派」とされるのは辛いことですが、韓国で「親日派」とされることはもっと辛いのではないでしょうか。たとえば、韓国では日本寄りの論説を書いたジャーナリストが言論界から追放され、世論から吊るし上げられ、土下座まで強いられたことがあったそうです。韓国で日本に近い立場を表明することは政治生命やジャーナリスト生命を賭した行動であり、「親日派」とされることは政治家や言論人としては死に等しいのです。そもそも韓国においては、旧帝国の支配を受けていた間に政権に協力的だった人々を「親日派」と呼んで糾弾してきた歴史があります。
それでも政治家や言論人である以上、リスクは覚悟の上で国家国民のために言論を貫くことを避けては通れない。「韓国は怪しからん」「許せない」と言っていた方がよっぽど楽です。しかし政治家がそれを言ってしまったら、国民に対する責任が果たせないのです。「言うは易し、行うは難し」。私自身、常に自分の覚悟を見つめ直しながら議論していきたいと思います。
―― 日韓関係の現状を打開する策はありますか。
石破:その議論は永田町や霞が関のみならず、あちこちで行われていると思います。そう簡単なことではありませんが、やり方はあると思います。まずは
二国間でのあらゆるチャンネルを活用して、関係性を維持していくこと。政府同士の対話が難しいときこそ、
議員交流、民間交流の出番です。また、二国間のやり取りで行き詰まりそうな事柄については、
国際社会の力を借りることも考えられるのではないでしょうか。
日韓両国は日韓基本条約やそれに伴う請求権協定、慰安婦合意の問題で対立していますが、これらについて基本となるべき価値観が互いにズレています。日本の価値観は「約束は必ず守らねばならない」というもので、韓国に対して「国際条約はちゃんと守るべきだ」と主張していますね。それに対して、韓国の価値観は「正しい約束は守るべきだが、間違った約束は破るべきだ」というものであり、文在寅政権は「日韓基本条約や慰安婦合意は間違った約束だから守る必要などない」という立場に立っているようです。
無論、このような韓国の態度は国際社会では通用せず、韓国の国際的地位を貶めかねないものです。しかし、それは日本が言っても伝わらない。それならば、国際社会の枠組みを使って、韓国の主張が国際的なルールには当てはまらないことを自覚するべく働きかけをしてもらうことも一つの方法だと思います。
もっとも、そのためには日本自身が国際社会からの信頼と共感を勝ち取る必要があります。国際社会は日本が韓国にどう対応するかをじっと見守っている。日本が国際法を遵守し、礼儀礼節を以て韓国に対応にすれば、日本に味方してくれるはずです。逆に日本が相手と同じ土俵に乗って無礼を働いたり、公衆の面前で相手を罵倒したりするようなことをすれば、「どっちもどっち」と思われます。だからこそ、そういう言動は厳に慎まねばならないのです。