親米路線のアルゼンチン・マクリ大統領、予備選で大敗。その原因と予想し得る将来図

親米・新自由主義路線も振るわず

 このような最悪の経済事情の中で唯一救いの手を差し伸べたのが国際通貨基金(IMF)である。この支援には米国が背後にいた。アルゼンチンは重要な国だというトランプ大統領からIMFへの圧力もあった。何しろ、マクリの前のクリスチーナ・フェルナンデス前大統領の政権下では、彼女は中国とロシアには頻繁に赴くが米国へは一度も訪問していおらず、米国との関係は疎遠になっていた。それをマクリが一挙に方向転換して米国寄りの外交を展開したのである。その外交姿勢を米国は無視できないわけだ。  そこでトランプはアルゼンチンがIMFに資金支援を要請した時に反対しなかったのである。ということで、アルゼンチンはIMFから570億ドル(6兆2700億円)の融資枠を手に入れたのである。それによって国家の破綻を回避した。(参照:「El Mundo」  アルゼンチンの国民にとって喜びに繋がるニュースは一切ない。そのような中で、マクリは予備選挙に臨んだのである。そして、予備選の前の演説ではアルベルト・フェルナンデスとクリスチーナ・フェルナンデスのコンビが政権に就けば政府が市場に介入して来る度合いが強くなると述べて統制経済を実行するようになるという恐れを有権者に植え付けようとした。  実際、クリスチーナ・フェルナンデスが大統領だった時は自由貿易に制限を加え資本の移動もコントロールしようとしていた。それを知っているアルゼンチンのエスタブリシュメントは市場経済を優先させるマクリを支持して来た。  しかし、今回の対抗馬の勝利によって、そのことが逆効果となってしまった。なにしろ、ペソはドルの前に30%の下落。ニューヨークの株式市場におけるアルゼンチン企業、例えば石油企業YPFの株価も36%の下落を記録することになってしまったのだ。同様にパンパ・エネルヒア41%、旅行業者デスペガールも30%という大幅な下落をした。

マクリ逆転の目はあるのか?

 マクリがまずなすべきことは、アルベルト・フェルナンデスとクリスチーナ・フェルナンデスのコンビが、どのような政策を実行に移す考えでいるのかを早急に明確にすることだろう。そうしないことにはアルゼンチンからの資金の流出は免れることが出来ないと推測されている。  それを明確にすれば、アルベルト・フェルナンデスとクリスチーナ・フェルナンデスのコンビが大統領になる恐れを国民に植え付けることになる。その意味で自由経済を主張するマクリとポチェトのコンビが見なおされる可能性もある。  しかし、これから10月27日の大統領選挙までドルの上昇を抑えることが非常に難しくなる。それはインフレの更なる上昇に繋がる可能性があり、経済の動きをコントロールできなくなる。それがまたマクリを不利な立場に追い込むことにもなるのだ。
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一方の副大統領候補のクリスチーナ元大統領も問題山積み
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