アジア諸国でも急成長する「都心型ドラッグストア」―「毎日が物産展」で成功する日本のローカル企業も!?

 前回の記事では、大手ドラッグストアの「立地形態」に注目し、近年は「都心型中心」のチェーン店よりも「郊外型中心」のチェーン店のほうが成長力があること、とくに都心・駅チカエリアではドラッグストアが飽和状態にあり、そのことが大型経営統合検討の一因になったと考えられることを述べた。  さて、それでは国内市場が飽和状態であるならば海外市場に進出するのはどうであろうか。  とくに、近年日本のドラッグストアはアジア諸国を中心とした外国人観光客がお土産を購入する場所として人気を集めており、その知名度も上がりつつある。しかし、日系ドラッグストアの「海外進出」はまだまだ進んでいない。
台北のTOMOS

アジア各地に増えつつある日系ドラッグストア(台北市)。
しかし「成功例」はまだ少ない

アジアのドラッグストア業界を牽引する「ワトソンズ」

 現在日本国内でも見られるような、薬のみならず化粧品や食品を多く扱ういわゆる「スーパードラッグ」業態のドラッグストアは世界各地で見られ、とくにアジア諸国では急成長を続けている。その急先鋒となっている企業が、アジア最大手のドラッグストア「ワトソンズ」(香港)だ。  同社は中国や東南アジア、ヨーロッパに亘る広い地域に展開しており、グループ年商は約200億ドルほど(2017年)。企業規模はドラッグストア世界最大手の「ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス」(米・英・瑞の大手ドラッグ3社の統合会社、年商約1000億ドル)には及ばないものの、世界各国のナショナルチェーンを買収することで、2011年に約1000店舗だった店舗網を2019年には25ヶ国、約15000店(傘下企業含む)を超える規模へと躍進させた。そのうち、中国の店舗は約3600店(2019年)を占め、アジア各地の新興国への展開が同社の成長の要となっている。
中国国内におけるワトソンズの店舗数推移

中国国内におけるワトソンズの店舗数推移。
中国本土のみ。同社ウェブサイトと孫(2015)を基に作成

 ワトソンズの成長を支えているのが、豊富なプライベートブランド(PB)商品の存在だ。  同社の店内に入ると、健康食品・化粧品・家庭用品などあらゆる分野のPBが展開されており、ざっと見たところ全商品のうち約2割ほどをも占める。こうしたPB商品はナショナルブランドと比較すると格安で販売されているものが多く、まさに同社の経営規模あってこその値段であるといえよう。なかには日本で発行されている香港や台湾のガイドブックにも「現地チェーン店で買えるオススメのおみやげ」として掲載されているものもあるほどだ。一方で、日本製造の商品(薬や化粧品)は比較的価格が高いものが多く、国にもよるであろうが日本国内の実勢価格の2倍ほどするものさえある。  ワトソンズを運営する和記黄埔(ハチソン・ワンポア)グループはスーパーマーケットや酒店などの運営もしているものの、ワトソンズ業態では(筆者が見た限りでは)旗艦店級の大型店舗を除けば食品の取り扱いが多い訳でもなく、スーパーなどとも棲み分けされているという印象を持つ。その点では、ひらたくいえば、日本の駅チカなどにある都心型ドラッグストアの品揃えと大きく変わらないといえる。
香港発のアジア最大手「ワトソンズ」の店舗

香港発のアジア最大手「ワトソンズ」の店舗(台北市)。店内は日本の都心型ドラッグストアとあまり変わりはなく、化粧品の品揃えも充実している。
同じ並びには住友グループの日系ドラッグストア「トモズ」も見える

海外戦略でも「イオンが有利」か

 ワトソンズをはじめとして、アジア諸国で成長中の大手ドラッグストアは駐車場を持たない路面店が中心であり、また化粧品の品揃えが充実しているなど、日本の都心型ドラッグストアが得意としてきた業態だ。  しかし、日本の大手ドラッグストア各社による海外展開は遅れを取っていると言わざるを得ない。国内の大手ドラッグストアは、住友系の「トモズ」が現地企業との合弁で台湾に50店ほど、「マツキヨ」がタイに現地企業との合弁で約20店・台湾に3店を(ベトナムにも進出検討中)、「ツルハ」がイオンの海外ネットワークを生かすかたちでタイに20店ほどを展開しているが、それ以外の企業は海外展開しているところでもまだまだ数店単位。一旦海外進出したものの店舗数を伸ばせなかった例も少なくなく、業界の雄・ウエルシアでさえ、2011年から展開していた中国の店舗を2019年に全店閉鎖、現在はシンガポールに数店を展開するのみとなっているほか、ココカラファインも過去に中国の店舗を全店閉鎖。2012年に再進出したものの店舗網の大幅拡大には至っておらず、数店舗を展開するのみとなっている。  これらの日系ドラッグストアの海外店舗は殆どが「都心型」。「郊外型」にも積極的に挑戦している企業はツルハだけだ。
日系ドラッグストアの主な海外店舗

日系ドラッグストアの主な海外店舗。多くは都心型だ。
トモズ(台湾)、マツキヨ(タイ)、ツルハ(タイ)以外は数店舗に留まる

 一方で、国内流通の雄・イオングループは、海外における「ドラッグストア単独店」は多くないものの、アジア諸国では郊外を中心に展開するスーパーマーケット「イオン」「マックスバリュ」などの一部店舗にドラッグストアに類するコーナーや健康食品コーナーを設けて人気を集めており、ノウハウの蓄積は十分であるといえる。
香港のイオン

イオンはアジア各地でスーパーマーケットを展開する(香港)

 ドラッグストアは「薬」「化粧品」「食品」という取り扱い品目ゆえに、現地人の好みを知り尽くすことが成功への近道となる。ドラッグストアとして地域に根付いた展開をおこなうとなれば、現地人の好みを知り尽くし、都心型・郊外型双方のノウハウがあるイオングループ傘下のドラッグストアが有利になるのではないだろうか。  先述したとおり、アジア諸国の大手ドラッグストアも多くが都心型であるため、未開拓である「郊外型」には眠れる大市場があるともいえる。現在ツルハは「世界2万店」の目標を掲げているが、その実現のカギとなるのが「郊外型」店舗の積極展開であるといえる。
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意外な日本の地方チェーンが健闘。その理由は……?
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