タイを走る日本のSLに乗ってきた。今年はあと3回、8月12日にも運行

功徳を積むためSLを磨く

 この7月28日のSLの前で、筆者は鉄道マニアでもある日本人の方にお目にかかった。タイの日系企業で駐在員として働くのだが、休日は列車だけでなく、駅舎などの見学も趣味にする人物だった。  この方は、趣味が高じて、というのもあり、学生などを中心にしたSLの保存を手伝うボランティア・グループにも所属している。さすがに整備まではさせてもらえないが、タイ国鉄職員がSLを整備しやすいよう、ボランティアたちはSLを磨いたりなどしてバックアップしているのだ。
中央駅の駅舎とSL

中央駅の駅舎とSL。この角度で撮ることは今後できないかもしれない

 タイは国民の94%が仏教徒とされる。そのため、徳を積み、よりよい来世を得るという行動がごく普通に行われる。最もポピュラーな行動はボランティアだ。寺院に参拝してお布施をするだけでなく、社会貢献度の高い活動を行う。貧困層の支援などはよくあるが、警察や消防などにもボランティアがいて、日々タイ人は徳を積もうと努力している。まさかSLの保存にまでそんなグループがあるとは知りもしなかったが、その日本人の話を聞くと、確かにそういった活動が生まれるのも理解ができた。 「この中央駅から出発するSLはまさにタイ米との物々交換でタイに来た車両です。戦後の機関車とはいえもう古いですから、この先いつまで走っていけるか不安要素は少なくありません」  すでに70年前の車両であるため、設計図があるかどうか、仮にあったとしても、部品を造ることができる技術者が日本にすらいない可能性が高い。実際にこの車両も石炭ではなく重油で走るように改造され、また小さなパーツは見よう見まねで国鉄の整備士らが製作したものを使っている。安全性に関係なければいいが、重要部品はそうもいかない。前出の日本人は続ける。 「最終的には新たに日本に残るSLを譲ってもらうといった手段しかないかもしれません。でも、日本国内でも数少なくて取り合いになっているわけですから、タイがそこに入っていけるかどうか」  タイ人は手先が器用だし、日本人と同じように物を大切にする文化がある。このSLもそのようにして守られてきたが、さすがにこの先は不安が残る。タイで日本の蒸気機関車が走る姿を拝めるのは、場合によっては長くないのかもしれない。
ほかのタイプの日本製SL

機関車が置かれるトンブリ車庫にはほかのタイプの日本製SLがあった

2019年に走るのはあと3回! 8月12日にも

 とりあえず2019年はあと3回走る見込みだ。母の日に当たる8月12日(シリキット太后誕生日)、10月23日(チュラロンコーン大王記念日)、父の日の12月5日(ラマ9世王誕生日)が予定となる。興味のある方は「State Railway of Thailand」で検索するとタイ国鉄のホームページが見つかるはずだ。年度によって違うが、大体2ヶ月前に旅程が確定して、チケット販売が開始される。人気が高いチケットなので、早めに手配することをおすすめしたい。
ドンムアン空港近く

駅を出発したのを見届けた上で、ドンムアン空港近くでも再撮影(2016年撮影)

トンブリ車庫

トンブリ車庫はトンブリ駅に隣接する。職員に頼めば、駅から線路を歩いて車庫に入ることができる

<取材・文・撮影/高田胤臣>
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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