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タイは毎朝8時に国旗掲揚があり、SLは8時10分に出発する
東南アジアのタイでは、毎年4回(2019年は6回になる予定)、日本の蒸気機関車(SL)がタイ国鉄の線路を走っている。国鉄の職員だけでなく、学生を中心にしたボランティアたちがSLを整備し、タイの重要な祝日に日本製のSLがバンコク中央駅(ホアランポーン駅)から出発している。
タイは政情的には不安定な状況が続く中、日本人からは観光でもビジネスでも人気が高く、移住する日本人も増加し続けている。そんなタイと日本は2017年に修好130周年を迎えるなど、昔から関係の深い国である。
タイの鉄道史を詳しく紹介している柿崎一郎著『王国の鉄路 タイ鉄道の歴史』によれば、戦時中に日本軍が持ち込んだ111両のSLの一部がタイのものになった。それから1948年と1950年にタイ米との物々交換で50両ずつのSLが発注され、これらが農村からバンコクまで米を運び、日本へと輸出されたという。
そういったSLが今もタイで大切にされ、タイの祝日を祝っているのだ。
タイに現存するSLは動かなくなったものは多数あるものの、動かせる状態になっている動態保存の車両は実はかなり少ない。4両5両程度の数しかなく、2019年のタイの祝日6回分を走る車両は、1949年製のパシフィック型と呼ばれるSLになる。
主にバンコクから古都アユタヤに走ることが多く(年度などによって目的地が違う)、折り返し地点に転車台がないことから、2両が連結されて走っている。
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同じ型のSLが後ろ向きに連結。帰りはこちらが前になって走る
先月7月28日は現国王の誕生日だったので、記念列車としてバンコク・アユタヤを往復した。チケットは1500バーツ(約5200円)だった。食事などもついているとはいえ、通常の車両ではアユタヤまで片道で66バーツ(約230円)なので20倍以上もの金額になるが、最近は人気が上がってきており、座席もほぼ埋まっているような状態だった。
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客車で日帰りの列車の旅に出発する人々
駅にはもちろん乗客も集まるほか、カメラ愛好家、鉄道好きの子どもたちも集まる。タイのこういったイベントの魅力のひとつは、限りなくゼロにまで展示物に近づけることである。筆者もダメ元のつもりで運転席にいた職員に下から「中に入っていい?」と訊くと、驚くほどあっさりと運転台に入れてもらうことができた。
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簡単に入れてもらえる運転台
ただ、出発前は線路内にも入り放題ではあったが、近年はタイも安全に対する認識や規制が厳しくなってきており、出発時には線路内に入ると怒られてしまう。数年前までは駅から数百メートルも線路を歩いて撮影ポイントを探すこともできたのだが。
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2016年撮影。このときはここまで入ることができたが、今年はもうできなかった
バンコクはいまだに踏切に車が進入した状態で渋滞が発生し、列車が車を待つという日本では考えられないことも起こる。そのため、バンコク市内はかなりゆっくり走るので、バンコクの駅で出発を見届け、そのあと車でバンコクの北側にあるドンムアン国際空港近辺まで行けば、直線距離で23キロも離れていても同じSLが全力疾走する姿も眺めることが可能だ。この遅さが、タイ国鉄の衰退の理由のひとつでもあるわけだが、こういった日は撮影者にとってはメリットに早変わりである。
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日本製である証拠が刻まれていた
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パーツひとつひとつを間近で見られるのが魅力
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出発前はどんどん触らせてくれる
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SLの職員とタイ国鉄の幹部(黄色いシャツの左に立つ人物)