参院選は民主主義を再生する機会になったか?「ポピュリズム元年」に民主主義のためにできること

政党要件を獲得した2つの「ポピュリズム勢力」

reiwagaisen

れいわ新選組品川街宣

 そして、19年の参院選では、安倍首相の自民党が改憲を訴えて勢力を微減にとどめ、維新が関東に勢力を拡大したことに加え、新たな2つのポピュリズム勢力が政党要件を獲得しました。まさに「日本ポピュリズム元年」といえます。  2議席を獲得した「れいわ新選組」は、消費税の廃止と異次元の財政出動を訴えて、熱烈な支持を集めました。それらの財源は、高額所得者や企業への増税でとうてい賄えるレベルでなく、国債のさらなる大量発行で賄うとしています。通貨の信用崩壊による国民生活の窮乏リスクを恐れる既存政党にはできない独特の主張で、背景には「現代貨幣論(MMT: Modern Money Theory)」という、新たな経済理論があります。なおMMTについては、結城剛志さんの解説記事をご覧ください。他にも、火力発電の推進を訴えるなど、気候変動政策にも消極的です。短期的・直接的な利益分配を主張する点で、典型的なポピュリズム勢力といえるでしょう。  選挙後、立憲民主党や国民民主党、日本共産党などの既存野党は、れいわに対して好意的な対応を表明しており、既存野党のポピュリズム化が進むのか、注目されます。  1議席を獲得した「NHKから国民を守る党」は、NHKの受信料を払わない権利を訴えて、静かな支持を集めました。かつては、集金人が定期的に訪問して、公共料金を徴収するのが一般的でした。ただ、多くの公共料金が口座からの引落しに変わった今、NHKの集金人が相対的に残っています。その集金人に対する素朴な反感を支持に結びつける政治手法です。NHKの受信料の他は、多数政党に従うとしている点で、支持を集めること自体を目的にしている勢力といえるでしょう。  こうした政治のポピュリズム化は、低投票率になるほど、効果を発揮します。そうした主張を先鋭化させるほど、熱心な支持者を惹きつけ、票を確保できるからです。投票率が下がれば下がるほど、政党・政治家にとって魅力的に映ります。  典型的なのは、安倍政権による韓国への貿易規制の強化です。これまでならば、国内産業に悪影響を及ぼす政策を、選挙中に実施することはありませんでした。支持を失うからです。ですが、政権は、韓国に対する強硬姿勢こそが、支持を強めることになると考えたのです。政権が国益に反することを平気で行えるのは、韓国に対する漠然とした反感を利用するためです。まさに、ポピュリズムです。

ポピュリズムを民主主義の活力にするための「責任勢力」

 ポピュリズムが民主主義を深化させるか否かは、極めて論争的なアジェンダです。忘れられがちな少数派の意見を政治に注入し、民主主義に活力を取り戻すという肯定的な評価と同時に、熟慮や合意形成を政治から遠ざけ、英雄主義的な扇動政治によって民主主義を破壊するという否定的な評価が存在します。ただ、少なくとも、何らかの社会の病理がポピュリズムとなって表れているとはいえます。  重要なことは、日本でポピュリズムが台頭している原因を考え、その原因を解決することです。筆者は、その原因について、経済成長と人口増加を前提としてきた社会システムの行き詰まりと考えています。それが、人々にしわ寄せされ、生きづらさや漠然とした不安につながっているのです。詳しくは、以前の寄稿記事「安倍政権とは何か?そして何を目指すのか?有権者に突きつけられる選択肢」で論じていますので、ご覧ください。  また、長期的な利益の確保や本質的な課題の解決を担う「責任勢力」の存在も重要になります。ポピュリズムは、現実で失敗したとたん、雲散霧消します。そのため、ポピュリズム勢力が、後始末を担うことはありません。論理的な政策でポピュリズムの弊害を片づける責任勢力がしっかり存在してこそ、ポピュリズムは民主主義の活力となるのです。  自民党がポピュリズム化している故に、責任勢力を担えるのは、与党だと公明党、野党だと立憲民主党と共産党になります。かつては、自民党の保守本流がその役割を担っていましたが、今や絶滅危惧種になっています。
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立憲民主党と共産党、公明党が握る「カギ」
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