「参院選投票日は休業」と決めたパタゴニアの日本支社長、その真意を語る

前向きに政治や地球の未来を語る「ローカル選挙カフェ」

閉店パタゴニア

パタゴニアは参院選投票日に直営店全店を閉店する

──投票日に直営店を閉めるだけでなく、各直営店で「ローカル選挙カフェ」も開催されるとのことですが。 辻井氏:僕自身だけでなく多くのスタッフが、環境・社会関連のイベントにお邪魔することがあります。そこでは、高校生や大学生、または社会に出たばかりの若者が抱く「未来に対する不安」を肌で感じることが少なくありません。  一方、日本では、地球や社会のあるべき姿など、未来について真剣に話をしたりすると「意識高い系」と揶揄されたり、場合によっては仲間はずれにされたりするといった懸念の声すら耳にします。  でも、未来の話をすることは誰にとっても大切なことのはずです。本来、もっと楽しいことのはずですよね。だからそんな悩みを持つ若者のためにもストアを開放して、同じようなことを考えている仲間とつながり、前向きに政治や地球の未来の話ができる空間を提供したいと考えています。  もちろん、年齢や性別を問わずどなたでも参加いただけます。ご関心がある方はぜひ、各ストアまでお問い合わせください。 ──休業日が増えたり、ローカル選挙カフェを開催したりすることで、ストアスタッフの負担が増えることもあると思いますが、従業員からの反応はどうでしょうか。 辻井氏:多くのスタッフは、こういう機会があれば積極的に関わってくれることがほとんどですし、今回も、企画から準備まで本当にたくさんのスタッフが主体的に動いてくれました。当日は、会社都合の休日という扱いにしているので賃金の保証はされますので、そういう面でスタッフに負担がかかることはありません。  中には「期日前投票を行うので、(投票日には)サーフィンに行ってよいですか?」という声もありますが(笑)、当日をどう過ごすかは各スタッフに委ねています。でも、誰とどこにいたとしても、未来について真剣に考える1日にして欲しいとは願っています。

死んだ地球では、ビジネスも政治も文化も成り立たない

投票イメージ──ともすれば、一企業の枠を超えた行動のようにも映ります。このキャンペーンの最終的な狙いはどこにあるのでしょうか。 辻井氏:気候危機の影響は、いつどこで、誰に降りかかるか分からないほど深刻化しています。それは、誰もが願う、安全で幸せな社会の前提を脅かすものです。  D・ブラウアーは生前、「死んだ地球では、ビジネスは成り立たない」という言葉を残しました。今や、「死んだ地球では、経済も、政治も、文化も成り立たない」という気配すら漂い始めています。  そういう意味では、市民の一員としても、企業としても、自分たちだけが再生可能エネルギーへの転換や脱炭素を実現するだけでなく、健全な水や土や空気を守るリーダーを選ぶために、自分たちにできるアクションを起こす必要があると純粋に感じています。  よく言われるように、近年の国政選挙の投票率は低迷していて、特に30代以下の投票率は30%~40%台と、とてももったいない状況が続いています。  このキャンペーンをきっかけに、1人でも多くのカスタマーが未来について語り合い、投票場に足を運び、ご自身の持つ1票を有効に活用してくださったらと願っています。

特定の政党や候補者への支援ではなく、「投票率を上げる」ための企業活動の効果は

 国政選挙が近づくと、企業の政治的動向も活発になる。といっても、企業献金であったり、特定の政党や候補者の選挙運動への従業員の組織的動員であったりというのがほとんどだ。  昨今では、投票証明書を見せると割引になる「選挙割」を実施する小売業者も増えてきているが、「投票日休業」はもっと踏み込んだ、前例のない試みだといえよう。果たしてその経済的・政治的・社会的効果は、それぞれどのように表れるのか注目だ。 【辻井隆行(つじい・たかゆき)】 パタゴニア日本支社長。1968年東京生まれ、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程(地球社会論)修了。パートタイムスタッフから正社員となり、2009年より現職。グリーンランドや南米パタゴニアなどを巡って自然と親しむ生活を送りながら、「#いしきをかえよう」の発起人の一人として市民による民主主義や未来のあり方を問い直す活動を続ける。
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
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