海辺の国際シンポジウム、5月25日。主催者撮影
大型クルーズ船などの大型観光を「地元の収益につながらない、時代に逆行したゼロドル・ツーリズム」と指摘するのは、東洋文化研究者で古民家再生・景観コンサルタントを行うアレックス・カー氏。同氏は、奄美市内で行われたシンポジウムで島民に警鐘を鳴らした。
「例えば、世界遺産に登録された白川郷では、今も観光バスによる交通問題などが起きています。トイレやゴミ対策など、景観維持への住民の努力とは裏腹に、立ち寄り型の観光はせいぜい土産物の購入くらい。地域経済への効果は期待ほどではありません。
食事や宿泊、体験を通じて地域に長期間滞在してもらうのが、観光地モデルとしての成功パターンです。滞在型のツーリズムには、環境の保全は大切。開発事業は発展性がない。
土建国家の日本は、これまで“不便”や“防災”などの名目が、まるで水戸黄門の葵の御紋のように、コンクリートによる大規模開発を促してきました。実際に奄美でも、海岸整備の話ばかりを耳にする。いくら風光明媚な土地といえども、自ら観光資源としての価値を下げてしまうのではないでしょうか」
インバウンドの言葉が一人歩きし、政府の旗振りにより、ゼネコンによるハードインフラ整備で大型クルーズ船を待ちわびる日本。かたや、ゴミやトイレの問題、環境負荷、治安問題など、地域がひとり直面する課題は多い。
仮に大手企業が参入しても、地元には土産物の売り上げ程度しか還元されない「ゼロドル・ツーリズム」の実態。グローバル企業の甘い言葉。目先の皮算用で籠絡される地方。観光の現場でも、どこか既視感のある構図が見えてくる。
そこに未来がないことは、冒頭のバンクシーの提示でも明らかだ。本来の観光資源は地域の個性にこそある。その土地が育んできた、自然や文化の懐かしさ、古きよき景観を再発見していく事業にこそ、行政の支援を期待したい。
<文/大石あやか>