30人の集落に週5000人の観光客、住民の生活や環境が破壊される!? 奄美大島・大型クルーズ船寄港地開発

環境や生態系の破壊、地域の「キャパオーバー」が懸念される

オアシスオブザシーズ

ロイヤル・カリビアン社の大型クルーズ船、オアシスオブザシーズ(画像はウィキメディア・コモンズより。作者/Paul Dickerson)

 東シナ海に浮かぶ奄美大島(鹿児島県)。「世界自然遺産登録」を目指しているこの島でも、大型観光が地域に与える負担の問題が浮上している。島の南西に位置する人口30人余りの限界集落・西古見が今、大型クルーズ船の寄港地開発で揺れているのだ。  外資系クルーズ観光事業者ロイヤル・カリビアン社が22万トンの大型客船の寄港を画策し説明会を行うなどし、地元では困惑が広がっている。  誘致を推進したい瀬戸内町(鎌田愛人町長)に対し、海や山林の希少生物保護を訴える住民が団体を発足して反対の意思を表明(2018年2月)。環境保護団体・WWFジャパンも開発計画の撤回を求め、国交省・鹿児島県・瀬戸内町に対し、誘致反対の緊急声明を出している(2019年2月)。
アマミホシゾラフグ

大島海峡に棲息する、希少種のアマミホシゾラフグ(文化庁「せとうちなんでも探検隊」のウェブサイトより)

 西古見集落が面する大島海峡は、希少種のアマミホシゾラフグや、未確認のウミウシの新種なども生息しているという。住民や専門家らは、開発と観光客受け入れによって、生態系に与える影響を懸念している。  問題はそれだけではない。世界自然遺産を味わうために、限界集落に毎週訪れる観光バスは100台分、約5000人の観光客が訪れると予測されている。地域の「キャパオーバー」が早くも懸念されていて、物理的にも受け入れは現実的ではない。

表立って反対する島民は“パージ”される

西古見

大型クルーズ船寄港地開発に反対する「奄美の自然を守る会」のウェブサイト

 島の中で、行政のやることに表立って反対を唱えれば、仕事を奪われるなど“パージ”されてしまう。「匿名という条件でなら……」と、島民たちは重い口を開く。 「自治体は、単に港湾整備を口実に、土木の受発注をしたいだけなのではないか。ゴミや汚水は誰が受け入れるのか、その先のことは考えていないのでは」 「集落の区長、地元出身の国会議員は何も考えずにただ誘致をしたい。西古見集落が好きで別の地域から移り住もうにも、新参者に地域の決定への発言権は与えられない。誘致を邪魔するから、と追い出されたという話も聞いた」 「事業者が寄港を引き上げても“大型の軍港として使うから大丈夫”という住民説明もあったという。そこに住む30数人だけでなく、島全体に関係ある話なのに、集落外への説明がなされないのはなぜか」  開発は果たして正解なのか? ただの環境破壊で終わるのではないか? 辺境の穏やかな村社会には、早くも混乱の種が持ち込まれている。
次のページ
あとに何も残らない「ゼロドル・ツーリズム」
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会