再開発はどうなる?――隣接地に続々「ライバル施設」
さて、それでは千里セルシーは今後どうなるのであろうか。
阪急阪神ビルマネジメントは今回の閉館に際して「隣接する千里阪急と弊施設(セルシー)との一体開発検討につきましては、現在も検討中であり、今後も取り組んでまいる所存」だとしており、近い将来の再開発は確実であろう。
しかし、セルシーが再び「大阪を代表する商業施設」の1つとなれるかどうかは不透明だ。
セルシーの隣接地には、2017年に文化教室や銀行などを再開発して生まれた複合商業施設「SENRITO」が開業したばかり。「SENRITO」はよみうりグループ、関西電力などにより開発されたもので「イオンモール」が運営に参画。館内にはイオングループのスーパー「光洋」を核店舗に、アパレルの「GU」、「studio CLIP」、紳士服はるやまが運営するスーツ専門店「Perfect Suit FActory」、イオン系シューズ専門店「ASBee」、雑貨店「セリア」など約30店舗が出店。
そのなかには「無印良品」や「ライトオン」、「田村書店」などのようにセルシーから移転した店舗も複数あった。光洋は2020年からダイエーの運営となることが決まっており、セルシーの核テナントである「ダイエー千里中央店」の行く末は既に決まっていたともいえる。
また、それに隣接する「旧・千里大丸プラザ」も2013年に全面改装されて大丸松坂屋百貨店が運営する複合商業施設「オトカリテ」となっており、こちらはイオングループの食品スーパー「ピーコックストア」を核店舗にアパレル店の「GAP」、「ユニクロ」、「アーノルドパーマー」、「アーバンリサーチ・ドアーズ」、手芸店「ユザワヤ」、眼鏡店「Zoff」など約30店舗が出店している。さらに、千里中央駅の北側には2008年に新築されたヤマダ電機を核店舗にレストラン街などを備える複合商業施設「LABI千里」も開業している。
かつては大阪有数の商業施設であったセルシーであったが、末期にはこうした隣接する「新たな商業ビル」に対して後塵を拝する状況となっていたことは言うまでもない。
セルシーの隣接地に開業した「SENRITO」。イオンモールが運営しており、有力テナントを揃え集客力が高い
セルシーの魅力だった「コト消費」を再開発で維持できるか?
しかし、これらの施設とかつてのセルシーでは大きく異なっていた要素がある。それは「アミューズメント性」だ。
現在のライバル店である新たな商業ビルはあくまでも近隣住民をターゲットにした「生活密着型」であるのに対し、セルシーはその広い面積を活かしてイベント広場のみならず「映画館」「ボウリング場」「プール」「スポーツクラブ」「ゲームセンター」、そしてフードテーマパークである「千里中華街」「ラーメン名作座」(これらの出店年代は一致しない)など、娯楽性の強い施設を多数出店させることで広域的集客を実現させてきたという経緯がある。
2014年まで映画館「千里セルシーシアター」があった地階。まだ残存テナントがあるためかつての思い出に浸ることができる
阪急阪神グループは2018年にセルシーと千里阪急を一体再開発し、延床面積10万平方メートルを超える巨大施設を建設する方針を示している。しかし、千里セルシーがほぼ閉館したにも関わらず、具体的な再開発計画については2019年6月時点は完全に「未定」だという。
セルシーがかつてのような複合商業施設としての存在感を示すには、大阪都心にも負けないような有力テナントを誘致しつつ、かつてのようなイベント広場はもちろん、高いアミューズメント性をも備えた「コト消費型」施設とすることが必須であろう。
かつてセルシー広場で行われていたようなアーティストによるイベントの多くは、現在は「あべのキューズモール」(大阪市阿倍野区・天王寺駅前)など大阪市内の都心型ショッピングセンターで行われるようになっている。
千里セルシーの再開発が完成した暁には、再び多くのアーティストが「千里中央」を訪れ、そしてこの地が再び「聖地」と呼ばれる日が来るのであろうか。阪急阪神グループのお膝元での大型開発であるだけに、その手腕に期待したい。
<取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「
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