生態系を活かした護岸をつくるため、植林活動を行う人々もいる(住民提供)
しかし、鹿児島県大島支所は「すでに予算がつき、事業者に発注済みだから撤回はできない。コンクリート工法で決まったことなので、環境負荷の少ない別の方法も考えられない」と、代替工法の提案を退けている。
海砂採取の認可と実績については事実関係を確認中だが「部署が多岐にわたること、裁判に関わる内容のためオフィシャルな回答はできない」と、取材に対して鹿児島県大島支庁建設課からの明確な資料提示はない。近海の海砂採取と砂浜侵食の被害については、関連性を否定している。
住民訴訟が係争中にも関わらず工事が強行されている(住民提供)
「県も環境省も訴えに取り合わないのは、この浜に大きな政治的な意味があるからです」と、ある島民が匿名を条件に語ってくれた。
「南西諸島の対中防衛シフトを進める上で、今、何としても軍港がほしいという話を聞きました。立地上、できたばかりのミサイル基地のすぐ真下に浜があり、限界集落がある。自然のままの広い砂丘を一部でもコンクリートにしたら、数年後には軍港になってしまうのではないかと不安です。
佐藤正久外務副大臣が来島した時の講演を聞いたら、『奄美大島には空母や備蓄船が停泊できる大型の港がほしい』と話していた。島の南部の山奥にミサイル部隊の基地を作ったものの、そこへの補給路はまだできていないようです。『奄美で行われている道路拡張などの大きな工事は、すべて自衛隊基地へのアクセスをよくするための総合的な計画の中にある』と地元議員から聞きました。
防衛省は、地元議員と一緒になって土建業者を抱きこんでいる。特に島の南部では、地元の政治家や採石業者、集落の有力者などが、反対する住民に直接脅しをかけています。反対意見を示したら『俺はヤクザの知り合いだぞ』と凄まれた人もいる。『仕事が奪われる、空手道場をやめさせられる』そんな思いから、異論を言えない同調の波が島を取り巻いています」
問題となっている嘉徳湾は、瀬戸内町の北東部(地図内右上)。節子集落にできた陸自ミサイル基地とは車で10分ほどの位置関係にある(文化庁「せとうちなんでも探検隊」ウェブサイトより)
奄美大島では自衛隊配備と前後するように、奄美市名瀬港や大和村国直など、至るところで港湾や道路の大規模な拡張整備が行われている。
大きな思惑があり、何としてでも着工したい。だからまずは小さな集落を説得して「地元民の同意」を取り付けて周辺住民を分断させていく。
以前HBO取材班が記事にした「大型クルーズ船港問題」も、そのようにして起こっている。
「クルーズ船の事業会社が撤退するなどして失敗しても、国が軍港として使うから無駄にはならない」という説明が、誘致を推進する行政方面からあったというのは、地元では有名な話となっている。