奄美大島、世界遺産登録推進なのに大型クルーズ船寄港の計画。地元は「自然環境が破壊」と反対
奄美大島の西部に位置する人口40人弱の集落・西古見(にしこみ)。ここに定員5400人の大型クルーズ船が寄港する計画が持ち上がっている。
国土交通省や、寄港予定の米大手クルーズ会社「ロイヤルカリ・カリビアン」が積極的に計画を推し進める一方、地元住民からは「自然環境が破壊され、平穏な生活が失われる」と反対の声が上がっている。
「明日の日本を支える観光ビジョン―世界が訪れたくなる日本へ―」が策定されたのは2016年3月。ビザの緩和や多言語での情報発信といった対策と併せて、クルーズ船受け入れの更なる拡充が打ち出された。寄港地を整備し、クルーズ旅客を2020年までに500万人に増やすのが目標だという。
これを受けて、国土交通省は2017年8月、奄美大島と徳之島(鹿児島県)の中から、大型クルーズ船の寄港地の候補を選定した。奄美大島と徳之島から候補地が選出されたのは、自然が豊かで、東アジアのクルーズ発着の中心地である中国に近いからだという。候補地には、西古見(瀬戸内町)の池堂地区や奄美市にある名瀬港が含まれていた。
瀬戸内町も、誘致の実現を求める要望書を鹿児島県に提出。地元紙・南海日日新聞によると、鎌田愛人(かまだなるひと)町長は、「実現すれば、地元にレストランや土産店などができ、関連する産業が発展、雇用が生まれれば人口増につながる」と意気込んでいたという。確かに、多くの観光客が訪れれば、地元での消費が増え、経済の活性化につながる可能性がある。
しかし、2018年2月に発足した「奄美の自然を守る会」は、クルーズ船の寄港に反対している。なぜなのか。「奄美の自然を守る会」の畑事務局長は、寄港のデメリットについてこう語る。
「西古見は人口40人弱の集落です。そこに週3回も数千人の旅行客が訪れ、約6時間滞在するといいます。旅行客の出したごみは誰がどう処理するのですか。西古見には公共のトイレも一つしかありませんよ」
寄港が想定されているのは、米ロイヤル・カリビアン社のクルーズ客船「オアシス・オブ・ザ・シーズ」。乗客定員は5400人、乗組員数は2394人だ。料金は、7泊8日の地中海クルーズで1人12万6151円(日本円参考料金)。富裕層ではなく、一般の旅行客が中心となる。上海から中国人観光客を乗せ、熊本や鹿児島、沖縄を周遊する予定だ。これだけの旅客が上陸すれば、地域住民の生活が一変するであろうことは想像に難くない。
それにもかかわらず、この計画は住民に周知されていなかったという。
「2017年8月、国交省の調査結果が出た翌日、瀬戸内町は西古見集落に行って説明会を開催。そしてそのまま町の経済4団体、議会の承認を経て、2017年12月に鹿児島県へ要望書を提出していました。しかし、ほとんどの町民はクルーズ船寄港地誘致の話があることも、県に要望書が提出されたことも知らされていませんでした。
町民が初めてこの話を知ったのは、2018年1月。「瀬戸内町にクルーズ船誘致 町方針最大22万トン級」という見出しの新聞報道でした。その後、説明会を求める住民からの要望書提出などを経て、瀬戸内町は2018年4~5月に住民説明会を開催しましたが、町側の説明は『計画の内容はまだ分かっていない』、『クルーズ船の船社も寄港する船の規模も開発規模も何もわからない』の一点張りです。
それから、2018年10月に町民主体と銘打った『クルーズ船寄港地に関する検討協議会』が始まりました。その協議会には、第1回から国土交通省の担当者と県のクルーズ船誘致担当者が同席しています。住民説明会では『(勝手に要望書を提出してしまい)手順を間違えた。二度と秘密裡には進めない』、『町民の理解が得られない限り、国や県との交渉はしない』と町の担当者が言っていたのにもかかわらず、国と県の担当者が同席しているのです。町民主体と銘打ちながらも、協議会に参加する委員の選任はすべて町が行いました。あたかも最初から、寄港は決定事項として扱われているようにしか見えませんでした。
第3回の『クルーズ船寄港地に関する検討協議会』では、ロイヤル・カリビアン社によるプレゼンテーションが行われました。その際、新聞・テレビなどのメディアは締め出され、委員による録画・録音も禁じられ、ロイヤル・カリビアンの話の内容は、非公開とされました。住民に知らせずに県に要望書を提出、それに対して謝罪を繰り返したと思ったら、いつの間にか国交省と県クルーズ船担当が協議会に参加している。そして、協議会内で『寄港に興味を示す会社の話を聞くだけ』と言いながら、ロイヤル・カリビアン社にプレゼンを行わせ、その内容は録音・録画も禁止、マスコミもシャットアウトして、町民に非公開とする。どこまでも秘密裡に進めていこうとする町の姿勢に、町民の不信感は募るばかりです」
「奄美の自然を守る会」は、現在も非公開とされているロイヤル・カリビアン社のプレゼンテーション内容と、昨今の大型クルーズ船寄港地の事例を町民に知らせるために、自主的に「大型クルーズ船寄港地に関する現状の説明会」を行っている。
「この大きな計画が、住民へ全く知らされないというのはどう考えてもおかしいことです。賛成・反対はおいておいて、とにかく現状を知ってほしい、とお願いして住民に対して説明会を開いています。最初は『たくさん人が来るからいいじゃないか』と言っていた方も、詳細な説明を聞くと9割の方が反対します。それだけ、この計画は奄美の現状にそぐわない、明らかにキャパシティオーバーな話だと私たちは考えています」(畑さん)
クルーズ旅客を2020年までに500万人に増やす計画
住民には知らせず、国交省と鹿児島県、瀬戸内町が計画を推進
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