寄港に賛成する人々は、地元での消費が増え、地域が活性化することを望んでいる。しかし畑さんは、それほどの経済効果は見込めないと指摘する。
「ロイヤル・カリビアンは100億円かけてレストランなどの施設を作るつもりのようです。工事を請け負えば、地元の土木建設業者は確かに潤うでしょう。奄美大島の主要な産業は土建業ですから、賛成に回る人がいるのもわからなくもありません。
しかし、レストランが出来ても、そこで雇われるのは一体誰でしょうか?地域住民の多くは高齢者です。外国語はほとんどできません。出身者が島に戻って来るという期待をされている方もいますが、現在、中国語が出来る日本人は全国で引く手あまたです。彼らが、大型クルーズ船寄港地ができたからといって戻ってくるとは思えません。結果、船社が用意した中国語ができるスタッフが雇われることになるでしょう。
また、大型クルーズ船は薄利多売で成り立つビジネス。宿泊も飲食も旅行代金のパッケージに含まれています。船内で豪華なレストランがいくつもただで選び放題なのに、地元のお店にお金を使う人がいるでしょうか。わざわざお金をかけて、地元のレストランで食事をする人がいるとは思えません。
さらにクルーズ船はいつまで西古見をルートに組み込むか分かりません。2016年に中国は、政治的緊張からなる制裁措置として韓国へ行く団体旅行商品の販売を禁じました。同じように日中関係が悪化すれば、西古見から撤退する可能性もあります。そのとき、放置された巨大なレストランや港の施設はどうするのでしょうか。解体費用は、一体どこが出してくれるのでしょうか」
国会では大阪12区補選立候補中の宮本岳志元衆院議員が追求していた
大型クルーズ船の寄港は、世界遺産登録にも悪影響を及ぼす恐れがある。環境省は2019年2月、奄美大島、徳之島、沖縄北部及び西表島の世界遺産登録を目指して、推薦書を提出した。2020年の夏に開催される世界遺産委員会で、登録の可否が決まる。
推薦書には、現在の奄美大島における主要観光施設の受け入れ客数、今後の見込み客数が記されている。適正人数を超えた人々が訪れることになると、世界自然遺産の根拠となる自然自体が破壊されかねない。そのため、世界自然遺産登録には観光客数の適正な管理が必要とされる。
しかし、この西古見地区の大型クルーズ船寄港地開発計画は、IUCNに向けた世界自然遺産への推薦書に一切記載されていない。
今年3月の衆議院国土交通委員会で、4月21日に控えた衆議院大阪12区補欠選挙に、無所属で立候補することを表明した宮本岳志・前衆議院議員は、「世界遺産申請にこれだけ気を使わなければならないときに、なぜこのような大型クルーズ船の寄港地候補を奄美大島や徳之島になぜ9か所も選定したのか」と国交省港湾局を批判していた。