スターリンクの概念図。多数の衛星が地球を取り囲むように配備されている (C) SpaceX
イーロン・マスク氏率いる宇宙企業
「スペースX」は2019年5月24日、宇宙インターネット計画
「スターリンク」を構成する、最初の60機の衛星の打ち上げに成功した。
同社は今後も矢継ぎ早に打ち上げを続け、最終的に
約1万2000機もの衛星を地球を覆うように配備し、全世界にブロードバンドを提供することを目指している。
なぜ、マスク氏とスペースXは、一見無謀とも思えるようなこの壮大な構想に挑んでいるのだろうか。
スターリンク(Starlink)はスペースXが開発している衛星システムで、地球を覆うように大量の小型衛星を配備し、全世界にブロードバンド・インターネットをつなげることを目指している。
同社がこれほど壮大な計画に挑んでいる背景には、
デジタル・ディバイド(情報格差)の問題がある。現在、アフリカや南米などを中心に、世界の全人口の半数以上がまだインターネットに接続できない状況にある。さらに、先進国である米国でさえ、人口の約10%がネットが使えない状況にあり、またブロードバンド回線が通っていない場所はさらに多い。
デジタル・ディバイドはかねてより問題視されていたが、アフリカの紛争地帯や砂漠、小さな島々が点在しているような諸島地域に、光ファイバーを敷いたり基地局を建てたりといったことは困難で、解決には至っていない。
そこで編み出されたのが、人工衛星を使うというアイディアである。宇宙を飛ぶ衛星を使えば、国境も海も砂漠も関係なく、全世界に電波を降らせることができる。
アイディア自体は1990年代からあったが、衛星やロケットのコストが高くとてもペイしないこと、また先進国の都市部では地上回線や無線基地局が整備されたこともあって、その大半が頓挫した。
しかし、近年の電子部品の小型化と高性能化を背景に、
衛星の小型化と低コスト化が進んだこと、そしてスペースXのお家芸ともいえる
低コストなロケットの開発も進んだこと、さらに、地上側に必要なアンテナなどの機材も小型化、低コスト化が進んだことによって、ようやく技術的、ビジネス的に成立する環境が整いつつある。
スターリンクの最初の60機を搭載した、スペースXの「ファルコン9」ロケットの打ち上げの様子 (C) SpaceX