ネット世論操作の調査活動で知られるデジタル・フォレンジックラボはフェイスブック社の削除を受けて、その内容を分析したレポートを公開した(参照:
『#ElectionWatch: Inauthentic Activity in India』デジタル・フォレンジックラボ、2019年4月1日)。インド人民党の支援者とインド国民会議の支援者のいずれもが相手を攻撃するためにネット世論操作を行っており、さらに相手がネット世論操作を仕掛けてくることをあらかじめ予想し、それ以上に効果ある攻撃を行おうする危険な傾向があった。
フェイスブック社が削除したフェイスブックページとインスタグラムには
「The India Eye」のページがあった。これはインドのIT企業
Silver Touch Technologiesの作ったもので、同社はナレンドラ・モディ首相の公式ページも作成している。
「The India Eye」は
ナレンドラ・モディ支持のナショナリストの集まりであり、100万以上のフォロワーを持つ(なお、前述のThe Atlantic誌では200万人以上)。昨年インドのファクトチェック組織AltNewsがSilver Touch社との関係を指摘している。Silver Touch社は否定したが、今回フェイスブック社によって再度関係が指摘されたことになる。
フェイスブック社はインド国民会議のIT Cellのページを削除したが、詳細は書かなかった。デジタル・フォレンジックラボによればこのIT Cellはインドのグジャラート州を拠点する組織で自分たちに関する説明をページに記載していた。
インド人民党とインド国民会議のネット世論操作は異なるアプローチをとっているが、いずれにしても民主主義的な議論を歪めるものであるとデジタル・フォレンジックラボは警告している。
インドの選挙におけるWhatsAppの猛威を分析したカナダのCBCは「WhatsApp選挙」と表現し、ネット世論操作が民主主義を毀損しているというインドのメディアThe Quintの編集者の声を紹介している(参照:
『’The battle is still on’: Fake news rages in India’s WhatsApp elections』CBC、2019年5月17日)。
戦いはWhatsAppやフェイスブックだけに留まらない。モディ首相を批判する記事をTIME誌に書いた記者のWikipediaのページに「インド国民会議の広報担当」という文言が書き加えられた(もちろんデマ)。それを誤りであるとファクトチェック組織AltNewsが指摘すると、今度はAltNewsのWikipediaのページにもデマが書き込まれ、デマを書き込む者とそれを修正するAltNewsの間で「編集戦争」が勃発した。
選挙に伴ってWikipediaに問題のある書き込みが行われるのは珍しくなく、Wikipediaもまた政治闘争の場に変わっている(参照:
『Indian election battles are being fought on Wikipedia, too』QUARTZ、2019年5月16日)。
もちろんツイッターなど他のSNSも利用されおり、ネット上のあらゆるツールがネット世論操作の道具となっている。
以前、寄稿した
『極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す。このままでは5年以内に世界の民主主義は危機を迎える』で書いた懸念がどんどん現実のものになっている。直近の欧州議会選挙を始め、さまざまな選挙で予想された傾向の結果が出ている。
我々は現在の民主主義を守ることよりも、新しい時代を考えることに注力すべきなのかもしれない。監視資本主義とエセ民主主義がディストピアに見えるのは古い価値観に囚われているからで、新しい価値観を受け入れれば輝かしい未来に見えるはずだ、などとは決して思わないが、新しい社会システムを考えるべき時に来ているのは確かだろう。
◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」
<取材・文/一田和樹 photo by
Marco Verch (
CC BY 2.0)>