野菜の切り方を知らなくても、包丁さばきの技術がなくてもOK
タマネギの回し切りの手順。『わらのごはん(船越康弘・かおり著)』から引用
包丁での切り方も難しくない。料理の素人からすれば「いちょう切り」「ささがき」「桂剥き」などは難しそうだ。野菜によって切り方も変わる。
だがマクロビオティックの場合は、繊維に沿って切ることがいちばん大事。その作物としての育ってきた特性を考えて、彼らが力を発揮しやすいように切ってあげるだけだ。野菜が植わっている状態を思い浮かべて、育つ方向に包丁を入れて、繊維を切断しないように、どんな切り方がいいか考える。
例えばタマネギなら、縦半分に切り、芽を上、根を下にして、中央から放射線状に縦の繊維に沿って薄く切る。玉ねぎを回しながらだと切りやすい。こうすることで1片の中に上・下・外・内がすべて入り、バランスが良い。
また、マクロビオティックでは肉や魚をあまり使わないので、魚がおろせない、肉の下処理がわからない、という人でも心配いらない。
ということで、いちいち野菜や肉魚ごとに切り方を覚えたり、包丁さばきの技術を高めたりする必要はないのだ。何もできない人ほどとっつきやすいじゃないか。
「ね〜、その切り方、変じゃない?」と言われても、「これはね、調理の常識とは違うけど、野菜の繊維を傷つけず、彼らがなるべく痛がらないようにその特性を活かしてあげる切り方なんだよ」なんて言ったら、バカにされるどころか「へ〜、そうなんだ、知らなかったよ、優しいんだね」なんて感心されるだろう。
大根を回しながら薄く皮を剥いていく「桂剥き」のようなハードルの高い技術がなくても、それを一段階飛び越した形でリスペクトされちゃうのである。
マクロビオティックの料理方法の一つに「重ね煮」というものがある。まず、いくつかの野菜を、皮を剥かずに細かく切る。そして、油も敷かず水も入れずに鍋の下から野菜を重ねていき、一番上に塩を振る。そこに蓋をして、焦げないように超弱火で時間をかけ、火が通るまで煮る。火力の節減になってエコなうえ、切って重ねて煮るだけなので誰でもできる。
地上の高いところに実る野菜ほど下に、地下深くで実る野菜ほど上に、という順番で重ねる。地上で上に伸びて行こうとする性質の野菜は、火をかけられると鍋の中でも再び上方向に。地下に伸びて行こうとする性質の野菜は火をかけられると再び鍋の下方向に。そうやって上下それぞれの野菜が自然の摂理に従って特徴を発揮し、鍋の中の真ん中に向かって旨味を調整していき、バランスと調和が図られる。
アクも旨味になるので、アク抜きなどしない。皮も剥かず野菜丸ごとだから、生命力が発揮されて旨味になってくれるのだ。出汁や化学調味料を入れなくても、野菜のエキスがそのまま旨味になる。
蓋をするのは、野菜の水分が逃げないようにするためだ。水道水などを入れれば傷みやすくなるし、入れた水に野菜の旨味が移行して、野菜そのものの味が落ちてしまう。水分を入れないからこそ旨味が逃げないのだ。油も使わないから、酸化して味が落ちることもない。肉や魚や油を使わないので、洗剤を使わずに洗い物ができて、下水も汚さない。
ちなみに「魚介や肉を使うな」ということではない。それらを入れるなら鍋の一番上に重ねる。全体に火が通ったら、鍋の中を混ぜ合わせて、臨機応変に使う。マッシュしてコロッケなどの揚げ物にしてもいいし、春巻きにしてもいい。醤油とごま油を和えてきんぴらにしてもいいし、混ぜ合わせただけのサラダにしてもいい。味噌汁の具に使ってもいいし、リゾットやパスタにもアレンジできる。
外部から余計な不純物が入っていないから、冷蔵庫で保管しても長く持つ。これほど簡単で、アレンジが幅広い調理方法はない。誰でもできて、美味しいのだ。