yukiotoko / PIXTA(ピクスタ)
以前書いた記事では、親と暮らせない子どもの約8割が施設で暮らしており、里親に預けられる子どもの数は限られていることを指摘した。ただ、親と暮らせない子どもを里親等へ委託する児童の実数は、右肩上がりに増えてはいる。
だが、10年で1.9倍の増加率だ。
養護の対象となる未成年を施設へ送致する割合は常に8割を超えており、里親等に委託する割合は平成19年(2007年)時点で10%、平成29年(2017年)でも19.7%までしか増えていない。
10年で2倍程度の伸び率のままでは、委託率が50%を超えるのは今後30年以上もかかることになる。
2017年、厚生労働省の有識者会議は「新しい社会的養育ビジョン」を示した。親元で暮らせない子ども(18歳未満)のうち、未就学児の施設入所を原則停止する方針を明らかにし、施設以外の受け入れ先を増やすため、里親への委託率を7年以内(2024年まで)に75%以上とするなどの目標を掲げたのだ。いくら都道府県の個別の事情を尊重したとしても、この数値目標にはあまりに無理がある。
今年4月、厚労省は、全国の児童相談所の支援体制や取り組みを評価する際の新しい指標を策定する方針を固め、各児相の現状把握に向け全国調査を実施することにした。里親登録数や委託児童数、年齢層ごとの委託率は、これまで自治体ごとにまとめていたが、これを児相ごとに算出するよう通知を出すそうだ。特別養子縁組では、仲介する民間団体との協力の有無や、これまでの成立実績を児相、自治体ごとにまとめ、里親・特別養子縁組それぞれに専従する職員の人数などを把握するという。(日本経済新聞2019年4月22日付より)
社会的養護に関して、国は自治体や児相への財政支援の予算を見積もろうとしているのだろう。
ここで、主に親に虐待されて児童相談所の一時保護所に送られ、そこから施設や里親家庭などへ振り分けられる子どもの視点に立って考えてみてほしい。
児童福祉施設で生活している児童等(被措置児童等)に対し、施設職員等が行う身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト・性的虐待などの虐待を、「被措置児童等虐待」という。あってはならないことだが、保護された施設内でも虐待されてしまう子どもがいるわけだ。
平成28年度に被措置児童等虐待に関する届出・通告の受理件数は全国で255件。届出・通告のあった事例271件(前年度以前からの継続事例16件を含む)のうち、「事実確認を行った事例」の中で「事実が認められた事例」は87件(32.1%)。
同年末の時点で、児童養護施設で暮らしていた子どもは2万6449人いたので、施設内で虐待された子どもの割合は、53件÷2万6449人×100=0.20%。
また、平成29年(2017年)3月末時点で里親に委託されていた児童数は、5190人。養育者の住居で定員5~6名の家庭養護を行うファミリーホームに委託された児童は、1356人。里親・ファミリーホームで虐待された件数は、13件あった。里親・ファミリーホームで虐待された子どもの割合は、13件÷(5190+1356)×100=0.19%。
施設でも、里親の家庭でも、子どもが虐待される確率はさほど変わらない。では、一般家庭ではどうだろうか?虐待などで社会的養護を必要とする子どもは、約4万5000人。0歳から19歳までの総人口は、平成30年11月1日時点で約2132万人。
すべての未成年のうち、社会的養護を必要とする子どもの割合は、4万5000人÷2132万人×100=0.21%。(※社会的養護にある子どもから、虐待以外の理由で養護されている子どもの数を除けば、この数字はもっと小さくなる)
施設でも、里親家庭でも、一般家庭でも、子どもが虐待される確率はさほど変わらない。養護の専門職が配置された施設でも、里親として認められて研修を受けた人の家庭でも、児童養護を知らない一般家庭と比べて、子どもが虐待されるおそれには、ほとんど差がないのだ。