「施設から里親へ」は被虐待児を救えるか? 厚労省が伝えない「不都合」な現実
虐待自体を減らし、誰もが子どもを救える仕組みが必要
人口は少子化で減り、養護される子は増える傾向にあるので、社会的養護の必要性自体は高まってはいる。ここ3年間、日本は「虐待された後」のケアとして保護や養護には力を入れてきた。
だが、それは虐待相談の件数の増加と、それに伴う予算増のいたちごっこを続けてきたにすぎず、親に子どもを虐待させない仕組みは作ってこなかったのだ(※以前の記事『児童相談所の一時保護は本当に「救済」なのか?』を参照)。
そもそも虐待という蛇口を閉めるか、虐待の初期段階で誰もが容易に子どもを救える仕組みを作る方が、虐待防止にとっては有効であり、社会的養護が必要な子どもを減らすことにも寄与する。
これまでの養護偏重の方針は、法制度を素人にはわかりずらいほど複雑化させ、予算を増やしても虐待解決の成果を出せないまま、一般国民に解決への希望と関心をどんどん失わせてきた。
施設や里親が、子どもにとって一般家庭と比べて特別に安全な場所ではない以上、映画『この世界の片隅に』のラストシーンで主人公・すずさんが戦災孤児を自分の家の子にしたように、市民の誰もがもっと気軽に子どもを救える規制緩和も検討されていいはずだ。
そのためには、「親権の壁」を壊す民法改正が必要になる。たとえば、親権が父母に独占されず、子ども自身が指名した成人や団体が基本的に親権者になれる制度へ改革すれば、どうなるか?
親権が父母に独占されることがなくなれば、父母以外にも親権者が何人でも誕生するので、父母からいざ虐待されそうになったら他の親権者の家にすぐに避難できるし、NPOのような法人が親権者になることもできる。もちろん、自分に恐怖を与えるだけの親を、子ども自身が親権者から外すこともできる。
現行制度のままでは、虐待する親の親権停止を家裁に訴えても、その審判を待つ間に、家に戻された子どもが親に殺されてしまいかねない。虐待する親から子どもを保護した人が、未成年者略取及び誘拐罪で逮捕されたり、親権者から損害賠償を請求されるおそれもある。しかも、被虐待児が大人になるまで必死の思いで生き延びても、自分を虐待した親を扶養・介護する義務を死ぬまで負わなければならない。こんな屈辱的な人生に耐えられず、自殺したり、親を殺してしまった人もいる。
子どもが親権者を自由に選べたり、追加できるようになれば、父母だけに子育ての責任が押しつけられることがなくなり、3人以上の親権者で子育ての苦労を助け合いながら分担できる。3人目、4人目と親権者が増えるたびに、一人あたりの親権者が分担する養育費や教育費などのコストは3分の1、4分の1になる。これなら新たに子どもを出産する際も安心できるので、少子化へ歯止めをかけることも期待できる。
こうした子育て環境が子どもの権利として当たり前に認められる新しい社会の仕組みについて、そろそろ議論を始めてもいいはずだ。ところが、与党内には「懲戒権の規定を民法から削除すべき」という意見に、「民法改正は時間がかかる」と後回しにしたい声もあるそうだ。その割に与党は、法律よりはるかに重い憲法の改正を急ぎたがる。
憲法を背負って生きていくのは、これからの子どもだ。先に死んでいく老人ではない。子どもの命と人権を一刻も早く守るつもりなら、子どもの権利をふまえた民法改正を急ぐことこそが、政治家の責務ではないか?
<文/今一生>
フリーライター&書籍編集者。
1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。
その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。
著書に、『
よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『
日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:
今一生のブログ
フリーライター&書籍編集者。
1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。
その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。
著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。