“エネルギー基本計画の中にこの新増設を入れる入れないだけでこれもう新聞記事がですね連綿と出続けちゃうってのは、実は私どもとして本意ではなくて“
これからも
英国で経済的に無残な失敗に終わった新規建設は、困難であり、国内では東通などから時間をかけて突き崩そうという意図が見えます。そのためには
寝た子を起こしたくないという、日本のみが多重防護の第四層と第五層を無視してきた福島核災害の元凶と同じ動機があります。
“日本は世界で唯一の被爆国ですから、センシティビティを上げて考えるのは理解ができますけど、決して生産的な議論にならない場合が多いので、よく場を選びながらそういうこととかを話を進めていきたい”
これは原発=原爆という1960年代、
1970年代の極めて古くさい原子力PAの発想です。まさに正力松太郎氏が行ったヒノマルゲンパツPAから一歩も進んでいません。1979年,1986年以降、このような古くさいドグマ(教義)は全く通用しません。極めてずさんであり不誠実です。このような人物が「財界総理」と言うことは日本の悲劇です。
“エネルギー抜きで、今のパリ条約を含めてですね、まぁ約束を守るということだけじゃなくて、この世界を危機に陥らせている気候変動に対する対処策がない”
なぜか
質問にないのに気候変動対策で原子力が必須という言葉が出てきていますが、福島核災害を経て、電力の30%を原子力という極めて脆弱な、過去に幾度も生じたとおり止まるときにはすべて止まるような電源に依拠することは、電力安定供給からほど遠く、すでに
気候変動対策以外に原子力の存在意義を主張することが不可能となっているということを如実に示しています。
しかし、風力を主体とした再生可能エネ、天然ガス火力、超高効率石炭火力だけでなく、運輸部門での高効率内燃機関や電気自動車(EV)の普及などによって温暖化ガス=炭酸ガスの低減は可能であり、
原子力は極めてハイリスクのムーンショット型(博打)投資と化しています。その典型事例が、
トルコ、英国をはじめとした全世界での日立、東芝、三菱による原子炉売り込みの全敗です。
気候変動に原子力が一定の寄与しうることは原子力業界の猛烈なロビー活動によって京都議定書で導入されたことです。しかしそれには
極めて高いコストと投資リスクが伴うために2002年に始まった原子力ルネッサンスは完全な失敗に終わっています。失敗のツケで
米仏日では原子炉メーカーの事実上の経営破綻が起きています。中西氏が会長を務める日立製作所も撤退判断の遅れから深手を負っています。
私が大好きな合衆国の原子力メーカーであるB&W(バブコック アンド ウィルコックス:TMI-2を製造したたいへんに優れた原子炉メーカー)は、原子力ルネッサンスにおいてSMR(小型モジュール炉)として最も有望視され、実用化に近かった3G++炉mPowerについて、福島核災害と再生可能エネ革命、新・化石資源革命によって先がなくなったと判断し、事業継続を諦めてさっさと撤退してしまいました。やはり
世界超一流メーカは、鈍重に見える総合エンジニアリング企業であっても意思決定が迅速且つ的確です。これぞ経営です。惚れ惚れします。
中西氏の主張は
新・化石資源革命と再生可能エネ革命を無視しており、12年は古い
時代錯誤のガラクタです。ある意味当然といえて、すでに
日本重電メーカーはエネルギー産業の大成長市場である風力発電の製造から完全に脱落しています。現在は総合商社のまねをしている有様です。太陽光も同様で、1980年頃から20年続いた自然エネルギー世界一の座(自称)は本格的商用化実現とともに泡と消えました*。<*参照:
“再生エネ機器、日本製急減 風力9割縮小、太陽光半分 :日本経済新聞”2019/5/11>
日本の重電メーカー全社は、すでに再生可能エネ革命の主流から弾き飛ばされており、火力発電プラントと原子力しか売り物が残っていません。火力はいまだに優位にありますが、原子力は福島核災害と国際原子力商戦での壊滅的敗北によって再生可能エネ市場からの脱落と同じ道をたどる危機にあります。そこに
経済的、経営的合理性は皆目見当たりません。
今回、まずは冒頭の想定質問であろう2問についてご紹介と解説しましたが、
中西会見による提言の核心と欠陥はこの2問で露呈しています。
残り6問を3回に分けてご紹介、解説しますが、こんな人たちが跋扈して日本は滅びるのではないかと執筆しながら陰鬱な気分になります。少なくとも原子力をこのような人たちに委ねることだけはできないと確信させる応答が後に控えています。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編Ⅲ原子力産業・圧力団体による宣伝・政策活動−−4
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo by
Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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