そんなビリー・アイリッシュは何を歌っているのか? また、彼女を生み出した背景にある、最近の世界の女性シンガーたちは何を歌ってきて、それはどのように進化しつつあるのか? 本稿ではそれを探っていくことにしよう。
ビリー・アイリッシュとはかなり特殊な存在だ。アルバム『When We All Fall Asleep Where Do We Go』でのデビューは17歳3か月で起こったが、レコード会社からの音源発表はすでに15歳のときから始まっている。しかも、そのような年齢でのデビューに関わらず、製作には有名なプロデューサーを起用せず、共作者は4歳年上の実兄フィニアス・オコンネルのみで、レコーディングもほぼ兄妹だけで行っている。その「現在の若者によるリアルなDIYミュージック」の姿勢は今日までずっと続いていることだ。
この兄妹による楽曲コラボレーションにおいて、ひときわリリックに敏感なのはビリーだ。幼い頃からヒップホップが好きで、かつ、影のある屈折した女性のインディ系のシンガーソングライターに強い影響を受けてきた。それは「死ぬために生まれてきた」と歌い、その大敗した文学性とセンセーショナリズムを持ってダークなカリスマとなったラナ・デル・レイや、望んでいたアイドルになれなかった体験を逆手にとって「自分こそがプリマドンナ」と自称し劣等感を前向きなパワーに変えていくマリーナ&ザ・ダイアモンズ(現マリーナ)など。彼女の音楽性は、こうした要素のかなりわかりやすい集合体でもある。
そんなビリーは2年ほど前から「自殺」をテーマにした『Bellyache』という曲で一部で注目を集め、別の曲が、少女が自殺するまでの過程を描いたショッキングなドラマ。ネットフリックスの『13の理由』で使われたことで、アンダーグラウンドでジワジワ広がった。そうこうしているうちに、彼女の楽曲はSpotifyのような楽曲配信サービスや歌詞検索サイトで話題を呼ぶようになっていた。
不気味なPVも話題に
そして今年の1月末、アルバム発表のアナウンスと同時に解禁された曲『Bury A Friend』は大きな話題を呼んだ。直訳すると「友達を埋めろ」というタイトルで、しかも同時に発表されたMVではビリー本人が幽体離脱し、複数の謎の手に襲われるというショッキングな内容(それ以前にも青い血や、蜘蛛が口から出るなど、MVは猟奇的だった)で話題騒然となった。この曲の真意は「もう一人の自分を埋めろ」ということで必ずしも悪い意味ではなく、逆説的にポジティヴなメッセージに取れる曲でもあった。
そして、さらにこのアルバムからは「あなたがいっそゲイだったらよかったのに」という失恋ソング『Wish You Were Gay』や、人気エモ・ラッパー、リル・ピープの急死の原因にもなって騒がれたドラッグ「ザナックス」へのアンチ・ソング『Xanny』など、タイムリーでセンセーショナルな話題を、苦悩する人の側に立脚点を置きながらも、力強い生命力で訴えていく力をビリーの言葉は持っている。