第二に、
天然ガス火力の急増は、全世界的な傾向であって、日本特有のことではありません。
ここで、原子力文化振興財団(旧原子力文化振興財団=原文振:JAERO)が長年作成しエネ庁が中心に配布してきたPA素材である原子力・エネルギー図面集をあえて使います。この図面集には、嘘こそ(多分)書かれていませんが、データの意図的な切り取りや、都合の悪いデータを使わないなど、プロパガンダの一典型事例で、高等教育(大学以上)の現場を著しく汚染してきた代物ですが、作成者とエネ庁による情報操作の動機と手法を掌握していればたいへんに使い出のある資料です。なお、2011年版以前の資料は、インターネットアーカイブを含めてきれいさっぱり消えています。但し、高等教育現場におけるPA活動において長年多用されてきており、二次利用資料による復元は可能と思われます。
世界の一次エネルギー消費量の推移 (一次エネルギーとは電力だけでなくすべてのエネルギー消費を示す。社会が高度化すると電力の割合が増し、日本では現在46%が電力である)
原文振・エネ庁 原子力・エネルギー図面集より
日本の一次エネルギー供給実績(製鉄などの工業用エネルギー源は石炭が多く、輸送用エネルギー源として石油が多く使われる)
原文振・エネ庁 原子力・エネルギー図面集より
発電実績構成の推移 (2009年を境に統計の取り方が変わり大きな段差が生じている事に注意)
エネルギー白書2018より(原文振・エネ庁の資料では、2009年以前が削除されており、資料としての価値が全くない)
世界の一次エネルギー消費量の推移を見れば自明ですが、
エネルギー消費量の伸びを支えるのは、石油と天然ガスで、これに近年、再生可能エネが加わっています。一方で、産業用途で主力を占めている石炭は、炭酸ガス削減を目的とした政策的経費の賦課と公害対策によってコストが上昇し、減少しつつあります。水力と原子力は増減無しで均衡状態と言って良いです。なお、石油の消費増加は、世界におけるモータリゼーションの進展によるものが大きく寄与しています。
日本の場合、一次エネルギー供給実績で消費の伸びを支えてきたのは
石炭と天然ガスで、
石油は漸減傾向、水力は均衡状態です。再生可能エネは漸増である一方で、原子力は近年の均衡状態が福島核災害によって消滅した状態が続いています。
電力に目を転ずると、福
島核災害後には原子力の寄与がほぼ消滅(福島核災害以前は30%以上のシェアが、現時点で2~3%)し、その不足分を天然ガスと石炭が補完し、更に再生可能エネが急伸していることが分かります。福島核災害後に喧伝され、今も論者がいる
「石油を燃やしすぎる」、「石油がもったいない」という論は、2011~2013年の3年間の一時凌ぎを誇張したものであり、2014年から2015年にかけて福島核災害前の水準に戻り、その後再生可能エネの増加によって更に減少傾向が続いています。但し、石油火力は、石油精製産物であり商品価値がたいへんに低いC重油の消費と最も優れた調整量電源として欠かせない存在であって、再生可能エネによる置換には限りがあります。
石炭消費の増加は世界の傾向から外れており、政策的経費の賦課の問題からは逃れられないため、解決すべき課題となりますが、天然ガス消費の増加は日本のみの特異的なことではなく、しかも
天然ガス価格の原油価格連動からの剥離と大幅な低下によってコスト減少要因とはなってもコスト増要因とはなりません。
エネ庁は
発電原価を長年捏造することによって原子力の発電原価を異常に安く見せるという粉飾を行ってきていますが、この粉飾を取り除くと最も安価な発電方式は、一般水力と天然ガス火力であって、それに石炭火力と風力が続き、大きく劣後して太陽光と石油火力、原子力が並んでいるのが実態であって、このことは近年多くの指摘がなされています*。
<*参考文献
『原発のコスト――エネルギー転換への視点』 大島 堅一著・岩波新書>
この発電原価の国家による捏造は、その算定根拠資料の大きな矛盾と異常を含めて今後別稿で詳細に解説します。
なお、合衆国を代表とする世界では、
風力、大規模太陽光、一般水力が最も安く、次いで天然ガスであり、それに劣後して石炭が、更に劣後して原子力というのが実態であって、近年の
経済性の悪い原子力発電所閉鎖の急増と原子力発電所建設の中止多発となっています。また合衆国では発電向け石炭需要が減少し、石炭余りから炭鉱の経営危機=炭鉱労働者の失業問題となっています。これは2016年大統領選挙にも影響を与えています。
合衆国における再生可能エネルギー価格の急落(発電端単価)
Forbs, 2016/06/22より
送電コスト $40/MWh
原子力発電(優良プラント) $36/MWh
原子力発電(下位25%) $62/MWh
経営判断の基礎になる数値について長年分かっていながら捏造資料に依拠してきたのですが、従前の手法でブラックボックスにして利益を仲間内で吸い取り、需要家にツケ回しをするというのがこれまでの電力、経団連の経営手法であって、電力自由化によって通用しなくなりつつあるところに福島核災害によって痛撃を受け、新たなごまかしを欲しているという状態です。再生可能エネ賦課金は、仲間内での利益吸い合いに寄与せず、消費電力量に均等賦課されるために大口需要家にとって非常に手痛いわけです。
今まで彼らが何をしてきたか、これからなにを望むかがよく分かる会見内容といえます。
国内の原子力発電所は、旧式から新しいものに至るまで、今後一挙に淘汰が進むでしょうが、その見込み、見極めをつけられないというのが電力事業者と経団連の実態といえます。これまでに9基の商用原子炉が再運開しましたが、概ね一基当たり2000億円の追加投資となっており、更に5年猶予のテロ対策他、多重防護の第四層への投資(日本の場合、世界標準である多重防護の第五層は事実上存在しない安普請の欠陥制度である)が続きます。
これまでに原子力規制委員会に嘘をつくなどして前言を翻し緊急時の最重要拠点となる免震棟を建設しない(伊方発電所では役に立ちそうにないトイレ一つの犬小屋のような建屋でごまかした)など安全対策費を著しく値切ってきた電力各社ですが、猶予5年が切れつつある今、規制を遵守して莫大な投資を正直に行うか、嘘を重ねるか、政治圧力で規制をゆがめ社会にリスクを押しつけるか、諦めるかが問われている転換点が今といえます*。
<*:
“原発のテロ対策施設が未完なら「運転停止」方針 規制委が定例会見(2019年4月24日) – The PAGE”
“テロ対策施設、未完成なら原発停止 再稼働原発の停止も:朝日新聞”2019/2/24
原子力発電所の再稼働大幅遅延は、各電力の能力不足と原子力発電所のIAEA標準から見た著しい欠陥(多重防護の第四層の整備が遅れており、第五層が事実上存在しない)への事後対策(バックフィット)が極めて大きなものであること、そしてNRAの絶対的な資源(人員)不足が原因であって、要は企業の能力にも国の能力にも全く見合わない事業であると言うことです。
本来ならば、見込みのない事業や外部不経済を止められない事業には見切りをつけて無意味な費用発生と社会の負担を取り除き事業転換をする意思決定が経営者の役割ですが、
本邦の経営者にはそのような能力も意識も責任感もないというのが中西会見の本質といえましょう。
なお、経営資源の投下、電力インフラに投資ができないと中西氏は嘆きますが、
追加投資が中途実績ベースで2000億円/基、最終的には3000億円/基を超える可能性すらある残余寿命精々20年前後の原子炉が今後何年再稼働にかかるか分からない状態で、漫然と投資を続ければ、健全な投資などできるわけがありません。経営資源配分を誤っているのです。