いったんここで区切って、筆者の解説を加えて行こうと思います。
中西氏が四つと述べた資料は、実際には冒頭でご紹介した三つです。実際に記者会見では四つ配布された可能性は否めませんが、確認できる限り、三つの資料を当日現場で配布したものと思われます。
冒頭で
福島核災害による国内全原子炉停止を挙げています。外部に自身の欲望の実現を要求する人物・組織は、自身の願望を冒頭に挙げる特性がありますので、この会見で中西氏と経団連が求めることは自明といえましょう。
まず重要なことは、中西氏が述べるとおり、福島核災害以降、日本ではほぼ2年間、全原子炉が停止し、その後も適合性審査に難航しているため、現時点で運転可能な原子炉はかつての50基前後から9基に激減しています。反面、これは、
「原子力は規制の上に成り立つ」という大原則から考えれば健全なことであり、原子力規制委員会(NRA)が最低限は機能していることを意味しています。
一方で、原子力発電に最適化してきた日本の送電網は、遠隔地大規模電源・集中立地に特化しており、これが北海道大停電の根本的な原因となっていますし、
再生可能エネ革命、新・化石資源革命に適合不能となっている原因となっています。
要は、
福島核災害、新・化石資源革命、再生可能エネ革命と同時に三つも生じた大きな条件の変化による電気事業のパラダイムシフト(paradigm shift: それまで当然のことと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化すること)が生じており、これは一大イノベーションの契機なのですが、それらに失敗しているのが日本です。結果として再生可能エネ革命、新・化石資源革命と原子力ルネッサンスの消滅に適合し、
一大エネルギー革命に邁進する世界に対して著しく劣後しているのが日本の実態です。
そういった視点で中西会見を分析すると、自ずと彼らの主張の背景が露呈されます。
中西氏は、
原子力発電所の運転ができず、化石資源依存が高止まりし、再生可能エネの急速な普及による再生可能エネ賦課金の増大によって日本の電気料金が国際的に高くなっていることを指摘しています。
このことには
二つの誤りがあります。
第一に、日本の一般家庭向け電気料金は
もともと世界でも最も高額な水準と言って良くそれによって大口向け電気料金を事実上のダンピング(不当廉売)と言えるほどの廉売をしてきた経緯があります*が、
実質所得の大幅減によって、一般家庭向け電力の売り上げが大きく減少していること、再生可能エネ賦課金が、大口向け電気料金単価に比して非常に大きなものとなってきたことにより、電力・経団連加盟企業にとっての負担が大きくなってきたと言うことです。
<*”東電利益9割は家庭から…電力販売4割弱なのに : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞 2012年5月23日)” (リンク切れ)によれば、東電が販売した電力量2896億キロ・ワット時のうち家庭向けは38%、大口向けが62%であり、売上高でみると、電気事業収入4兆9612億円のうち家庭向けは49%、大口向けは51%とほぼ同じ比率。だが、1537億円の利益のうち家庭向けは91%、大口向けは9%になっている。つまり、電力量で4割弱を販売している家庭向けから9割の利益を稼ぎ出している構図だという。>
現状の再生可能エネルギー賦課金制度は、世紀の大失政であり大悪政といえます。現在の
再生可能エネを極めて不健全な金融投機商品としたものは日本版全量買取・固定料買取制度といえ、とくに
固定料買取制度(FIT)に根本原因があります。
FIT制度そのものは、新エネルギー普及の為の導入促進政策としてたいへんに有意義なものですが、日本においては極めて重大な欠陥のある制度となっており、とくに大規模太陽光においては、金融投機商品化が著しく、「ソーラー権利転がし」と言っても良い投機行為が蔓延しています。近年、FIT価格の大幅低下に加え、所謂「寝かせFIT契約」(過去に高額FIT契約を締結した権利を、何年も寝かせておく投機手法)対策が始まりましたが、いまだに実効性は出ていません。
「ソーラー 権利 寝かせ」でGoogle検索すると、誰もがその極めて不健全な金融投機商品の実態を見ることができます。この制度設計の致命的な失敗によって
日本の太陽光発電は、技術発達が大きくゆがみ、国際的には全く競争力の無い産業となって市場から駆逐され、あげく需要家から収奪し、地方では大規模環境破壊の元凶となっています。すでに世界では、太陽光は原子力や石炭火力を駆逐し始めるほどに安価な電源となっていますが、日本では極めて高価格の迷惑電源と化しています。
同様のことは
木質バイオマスや小規模水力にも起きていますが、前者はそもそも燃料となる資源がない、後者は投資額・管理費過大と水利権問題で中小事業者の手に負えないという理由でたいした規模にはなっていません。なお、この補助金狙いでエネルギー工学専攻をゼロから設置しためざとくあざとい大学も国内にいくつか見られますが、多くの実態は
補助金クレクレ大学でしかなく、学術的にも社会的にも有害かつ無意味です。古典的なエネルギー工学専攻や資源工学専攻が日本にはほとんど存在しないというのは、日本の本質的欠陥のひとつです。(パチものは星屑のようにあります。)
再生可能エネ賦課金は、一般家庭で電気料金の15%前後の割り増しを引き起こしていますが、大口需要家にとっては廉売対象外ですので、極めて過重な負担となっています。
要は、
制度が極めてできが悪く、運用も最悪で、しかも2012年7月野田政権によって始まった制度が、その後8年半、安倍政権によって改善されることなく運営されてきたことを厳しく批判すべきであって、再生可能エネ革命を批判することはお門違いといえましょう。しかも、
国際再生可能エネ市場から駆逐されるまで、このゆがんだ制度によって当初荒稼ぎしてきたのは経団連加盟企業であると言うほかありません。
なお、再生可能エネの王様である風力は、リーマンショック前後の風力バブルと乱開発によって日本では市場が崩壊し、更に典型的なNIMBY(Not In My Backyard:迷惑施設)化しており、現在では洋上浮体風力のようなキワモノに税金で手を出して完全に失敗する*など、かつて
風力技術では世界でもトップと自称していた日本は、市場から完全に脱落しています。結果、大手電機メーカーですら自社生産、開発を諦め、商社化しています。重電メーカーが商社化するなら、その仕事は、ソリューションプロバイダとしてのプロ中のプロである総合商社に譲るべきでしょう(余談ですが、日本最初の原子炉JRR-1を輸入したのは丸紅です**)。
今日、日本は、世界が邁進する再生可能エネルギー革命において、数々の自殺行為によって市場から脱落したといえます。今日、日本は、世界が邁進する再生可能エネルギー革命において、数々の自殺行為によって市場から脱落したといえます。
<*
“洋上風力、発電不調 福島沖・浮体式、商用化に暗雲:朝日新聞2018年7月11日”>
<**:参考文献
『原子の火燃ゆ―未来技術を拓いた人たち』木村繁著 プレジデント社刊1982/9>