「民主化と逆行」。独裁化するカンボジアに「NO」と言わない日本政府

欧米諸国は厳しい対応

 近年、国際社会はカンボジアの悪化する政治情勢に懸念を示し始めている。長きに渡って援助国だったスウェーデンは、教育と研究分野を除き、カンボジア政府への援助を終了することを発表。また米国政府は、カンボジア国民に対する援助を除き、軍事的援助などを停止した。  さらに欧州連合(EU)は、総選挙の資金援助を全面停止したうえ、「主要野党が恣意的に排除された選挙プロセスを正当なものとみなすことはできない」と批判。国連人権理事会ではニュージーランドが、ドイツやイギリスを含む45か国を代表して、解党されたカンボジア救国党の復活を呼び掛けた。 (参照:REUTERSホワイトハウス公式HPREUTERSREUTERS)  一方で日本政府は、カンボジア政府に対する明確な批判は避ける姿勢を取り、選挙監視団の派遣こそ直前に見送ったものの、カンボジア総選挙に約8億円の無賞資金協力として日本製選挙箱・ピックアップトラックなどを提供した。また、カンボジア人民党が全125議席獲得し事実上の独裁国家が生まれたのにも関わらず、自民党の二階俊博幹事長は書簡で祝辞を述べた。’19年4月には、河野太郎外務大臣が政治的中立性に欠けているカンボジア選挙管理委員会の関係者などと日本で地方統一選の開票状況を視察した。 (参照:外務省公式HPKHMER TIMES

中国の脅威に対抗を試みる日本政府

 なぜ日本政府はこれほど強権的なフン・セン首相を支持しているのか?  その背景には、カンボジアでプレゼンスを増す中国政府の存在がある。日本は何十年もの間、カンボジアにとって最大と言って過言ではないほどの開発協力国であり、投資国であった。しかし、’10年頃には中国がそれに取って代わり、カンボジア最大の援助国となった。しかも、中国の援助の大半は融資であり、’18年の時点で60億ドルにのぼるカンボジアの対外債務のうち、約半分を中国が占めている。更に、今年1月には、フン・セン首相と習近平国家主席は’23年までに両国の貿易額を100億ドルに引き上げることなどに同意した。(参照:Radio Free AsiaVOA東京新聞)  つまり、フン・セン首相を中国に取られまいと、日本政府は民主主義的な価値観を犠牲にしてまで、カンボジア政府の機嫌取りをおこなっているのだ。しかし、これは明らかに負け戦である。中国は一党支配体制であるため、独裁国家の支援をめぐって世論を検討したり、財源の支出について透明性を保つ必要に乏しい。日本政府が中国を援助額で負かすことはもちろん、より良い条件で提案することも非現実的だ。  日本政府の定める開発協力大綱は、「普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現」の項で、こう謳っている――『我が国はそうした発展の前提となる基盤を強化する観点から、自由、民主主義、基本的人権の尊重、 法の支配といった普遍的価値の共有や、平和で安定し、安全な社会の実現のための支援を行う』。 (参照:外務省公式HP)  それならば日本政府は、矛盾を作り出している中国との競争ではなく、民主的及び人権的価値観こそをカンボジアとの外交関係の中心に置き、いかにしてカンボジアの人々の幸福や健康に貢献できるかを検討すべきだ。 <文/笠井哲平> かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
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