安田純平さんの妻の深結さん「自殺を考えていた時期も。人とのつながりで救われた」

「自殺を考え、身辺整理をしていた時期も」

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トークショーを行う、深結さん(左)と鎌田さん

 深結さんは、当時の心境を語る。 「その後、母が亡くなって、不安で不安で仕方がなくなりました。友達の家にいたら迷惑も掛かるので。1人でいるのが怖くて、人の気配があるところにいたくてインターネットカフェで寝泊まりするなどしていました。今でも電気をつけないと眠れないのです。  自殺を考えていた時期もありました。私は、自殺する人の気持ちってわからなかったのですが……ご飯を食べるように普通に自殺を考えるようになって、身辺整理をし始めていました。  でも『私は生きていかなければいけない。東京の家を守って、夫が帰ってきたときに普通に暮らせるようにしなければ』という思いも強かった。でもとにかく普通にしようとしていたら、ネットでは『大変な状況なのに、妻は笑っている』って書かれました。でも、本当にいろんな方が励ましてくれましたので、心は折れなかったです」  印象的だったのは、純平さんが深結さんにお願いするような感じで訴えた次の言葉だ。 「外国人が誘拐されるとニュースになります。しかし現地の人がどれほど多く誘拐されているか。誘拐された本人より家族が大変です。(深結さんは)日本でその気持ちを体験できたのだから、そのことを伝えて行ってほしい」

多くのメディアは「身代金が支払われた」と決めつけて報道した

 2018年7月31日に公開されたビデオでは、純平さんがオレンジの囚人服を着せられ「ウマルです、韓国人です」と銃を突き付けられてしゃべらされていた。意味不明な内容に、いろいろな憶測が流れ、それがバッシングになっていた。    深結さんは自ら話した方がいいと判断し、8月7日に記者会見を開くことを決める。仲間内ではバッシングを恐れ、会見に反対する意見もあった。そのとき、深結さんの意思を尊重して、うまく記者会見を切り抜けようとできたのが、「安田純平さんを救う会」だ。記者会見はおおむね好意的だったが、バッシングもあった。  さらに純平さんが憤慨するのは、身代金に対する報道だった。政府は「支払っていない」と否定したが「メディアはこぞって、シリア人権監視団の情報だけで裏もとらずに身代金が払われたと引用した。帰国する飛行機の中で、『身代金が払われましたけどどう思いますか』と決めつけて質問されました」 「身代金が払われた」と報道することには、2つの危険性がある。1つ目は、安田氏がバッシングされること。しかしこれは、メディアにとっては視聴率が稼げる。2つ目は、テロリストに「日本人を捕まえたら(日本政府は否定しても)身代金が払われる」という誤った認識を与えてしまい、人質事件が多発する可能性がある。
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寛容さに欠ける日本社会
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シリア拘束 安田純平の40か月

2015年6月に取材のためシリアに入国し、武装勢力に40か月間拘束され2018年10月に解放されたフリージャーナリスト・安田純平。帰国後の11月2日、日本記者クラブ2時間40分にわたる会見を行い、拘束から解放までの体験を事細かに語った。その会見と質疑応答を全文収録。また、本人によるキーワード解説を加え、年表や地図、写真なども加え、さらにわかりやすく説明。巻末の独占インタビューでは、会見後に沸き起こった疑問点にも答える

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