アサンジ逮捕を巡る米露の綱引き。「ハイブリッド戦争」時代のリテラシー

一田和樹
Julian Assange

逮捕されたウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏 Julian Assange photo by New Media Days via flickr(CC BY-SA 2.0)

アサンジ逮捕の背景にあるエクアドルの親米路線転換

 4月11日、イギリスでウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジが逮捕された。アサンジは2012年からロンドンのエクアドル大使館に匿われていたが、警察が招き入れられ逮捕となった。アサンジはエクアドルに亡命したことになっており、同国の市民権を付与されていたが、それも剥奪された。  ネットの過激なジャーナリストあるいはリークサイトの創始者がアメリカの逆鱗に触れて逮捕された。言論の自由を脅かす危険がある。と言うこともできるが、背景を考えるそれほど簡単なことではない。  まず、アサンジを受け入れた時のエクアドルは独裁とも言える状態で、国内は監視システムが配備され、ジャーナリストや反政府活動家、政治家がターゲットとなっていた。また政府は企業と契約も締結していた。エクアドルがアサンジを匿ったのは言論の自由を守るためではないことが明白である。エクアドルが親露反米路線だったためだ。ロシアがエドワード・スノーデンを匿っているのと同じ理由だ。(参照:『国民監視とネット世論操作はこう行われる! エクアドルの事例』HBOL)  そして今回アサンジがエクアドルから見放されたのは2017年の選挙でエクアドルが親米路線に変わったためである。これにともなって独裁体制から民主体制に変わりつつある。つまり皮肉なことにエクアドルの独裁体制が崩れたからアサンジが逮捕されたことになる。

「民主主義」が壊れつつある世界

 今回の件にはロシアが深く関わっている。すでに本連載でも紹介した各種調査機関のレポートでも明らかになっている通り、ロシアは世界中で右翼、左翼を問わず極論を主張する政党やグループを支援し、国家を分断し、極論の政権を誕生させている。理由は簡単で極論を主張する国家は独裁的になり、自由主義国家とは相容れなくなって、ロシアや中国と協力関係を結ぶようになるからである。こうした国が増えれば軍事面はもちろん経済面でも経済制裁を課されてもなにも問題なくなる。すでに東南アジアの多くの国はそうなっており、ラテンアメリカやアフリカもそうなりつつある。(参照:『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』角川新書、『フェイクニュースとネット世論操作はいかに社会を悪化させるか。中南米の選挙に関する報告書の恐ろしさ』HBOL)  多くの人は意識していないが、世界は大きく変わりつつある。Economist Intelligence Unit(英エコノミスト誌の研究所)の民主主義指数に基づくと現在「完全な民主主義」国家で暮らしている人口は全世界のたった4.5%に過ぎず、年々民主主義の状況は悪化している。安全保障関係の資料でも「民主主義を守る」ことが優先すべき課題としてあげられることが多くなってきた。前述のように民主主義体制が崩れることが軍事や経済に大きな影響を与えるためだ。  そのロシアにとってアサンジは民主主義体制の瑕疵を突くための便利な武器のひとつだった。アサンジ自身もそれを認識していた可能性も高い。  アサンジは2012年にロシアのプロパガンダ媒体として有名なRTで「The Julian Assange Show(一部ではThe World Tomorrow)」と題したテレビ番組でホストを務めた。この放送は12回行われ、6回目に当時エクスペディア大統領だったコレアがゲストとして登場している。  番組の内容はアメリカの批判が中心で、開始10分くらいからメディア批判が始まる。ラテンアメリカのメディアは銀行屋の手先で腐っているとコレアが言えば、アサンジはガーディアンもニューヨークタイムズも腐っていると応じる。19分くらいにコレアが「変革にはリーダーシップが必要だが、すぐに圧政だとか独裁だとか言い出す」と言い、変革には自分のような独裁者が必要だと言わんばかりの論調になる。 この放送が行われたのは、コレアが国民監視の体制を整えつつ、自分を批判するジャーナリストやメディアを攻撃していた時期でもある。国内外で高まる批判に対する反論のつもりなのだろう。  これを見る限りでは、アサンジはロシアのプロパガンダ媒体で反米および反自由主義メディアキャンペーンに協力している、と思われても仕方がない。
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ロシアのネット世論操作の武器だったウィキリークス
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