橋下徹・元大阪府知事がジャーナリストを名誉毀損で提訴。しかし、法廷で証言の矛盾を追及される

橋下氏の「大号令」後に参事が自殺

 元投稿者が問題にした、橋下氏による府幹部に対する激しい叱責は2010年9月14日の府部長会議で行われた。この部長会議の議事録は大阪府のホームページの「部長会議の審議・報告の概要」に掲載されている。  橋下氏はこの会議で次のように「大号令」を掛けている。 「リスク管理を誰もしてくれず、私は丸裸の状態。今回の所管である商工労働部が準備した当初の日程を見ると、要人との面談まで設定されており、大変驚いた。当初言っていたリスクの話はどうなったのか」 「府では、台湾とは民間交流の範囲内という外交方針を決めていたはず。結局、私が一人で部局に直接指示して、日程を取り仕切り、事なきを得たが、あれだけリスクを言っていたのに、いざ行くとなると全く無くなるのはどういうことか。府民文化部と商工労働部はきちんと連携をとっていたのか」 「台湾サイドには、私が謝罪し、中国への配慮もという事情もお話して、何とか納得していただいたが、これは私だけではなく、府の問題でもある」

ないものを「あった」と主張してきた橋下氏

 橋下氏は38歳で知事就任後、以前の府知事が行わなかった台湾訪問を計画し、2010年9月5日から8日まで台湾を訪問した。橋下氏によると、「一つの中国」を重視する中国との外交問題が発生しないように、台湾と府との交流のありかたについて、台湾の行政関係者との交流は行わず、民間レベルの経済・文化交流にとどめるべきだという議論を事前の府庁内の「戦略会議」(副知事や各担当部局の幹部)で決めていたと、繰り返し主張してきた。  機関決定なのだから、隅々まで府の正式決定が行き渡っていて当たり前であり、違反したものを厳しく叱責するのは当然であるという論理である。しかし前述のように、岩上氏およびIWJの取材によってこの大前提が完全に覆されている。機関決定はなかったのだ。ないものを「あった」と主張してきた橋下氏の偽証が問われる。  ところが、橋下氏の台湾到着後、台湾の経済部長(経済相に当たる)との面談がセットされており、橋下氏が激怒。橋下氏は帰国後に開かれた部長会議で、「大阪府戦略本部会議で決めた方針について、担当部局の細部にまで意思共有ができておらず、現場の一職員の判断で府庁の決定内容を覆したことを認めるわけに絶対にいかない」と杉本・商工労働部長(当時)らを叱責した。橋下氏の非難の的になった「現場の一職員」の上司が自殺したN参事だとされる。  橋下氏は陳述書で「大阪府戦略本部会議において、台湾訪問担当部局の部長への注意は、何ら非難されるものではなく、今後重大なミスをおかさないためにも必要な注意だったと確信している」と断言している。

訪台前に方針決定の会議はなかった

 大阪府には、府庁の意思決定機関は戦略本部会議と部長会議しかない。大阪府のホームページには、この2つの会議の議事録が掲載されている。橋下氏は「知事になって一番力を入れたのは情報公開で、戦略本部会議と部長会議の議事録はすべて公表している」と断言している。  府庁内で「部長会議」を担当しているのが政策企画部政策企画総務課だ。同課の安井利昌主査はIWJの中村尚貴記者の電話取材に、「橋下前知事の訪台について、訪台前に会議で議題になった回はない」と表明した。安井氏は「橋下前知事は議事録をすべて公開し、記者クラブにも配布していたので、議事録にないということは、議論がなかったということだ」  また、政策企画部企画室政策課の粟井美里主事(戦略本部会議担当)は「2010年5月から9月までホームページの議事録に出ている議題がすべてで、訪台に関して議題になったことはない」と答えている。安井、粟井両氏は「この2つの会議以外に、橋下氏を含めた幹部の会議はない」と述べている。  安井氏は4月2日、筆者の電話取材に「橋下氏の台湾訪問前に、訪台のことが議論されたという記録はない」と述べた。粟井氏も4月5日、「IWJの中村記者に話したとおりで、訪台前に議論をしたという記録はない。非公開にする場合でも、議題に載せないということはない」と述べた。  橋下氏の陳述書などでは、訪台の方針を「戦略会議」または「部長会議」で慎重に議論を重ねて決めたと言っているのだが、府の両会議の担当者が「いずれの会議でも、訪台前に訪台に関することが議題になったことは一度もない」と明言しているのだ。
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「話し合いをしても仕方がない」と言った橋下氏
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