暴力・尋問・投獄 ベトナムの「闇」と日本が当てるべき「光」

ベトナムの人権活動家の期待を裏切る日本政府

 こうした組織的な弾圧が起きているなか、ベトナムの人権活動家たちは日本に対して希望を抱いている。なぜなら日本がベトナムの最大資金援助国であり、国家主席を含む政府の幹部たちと定期的に会談を実施しているため、ベトナム政府に対して改革を行い人権を尊重するよう圧力をかけるのに絶好の立場にあるからだ。(参照:「外務省ホームページ」)  実際に、’18年5月には、安倍首相は当時国家主席だった故チャン・ダイ・クアンと会談し、5か月後にグエン・スアン・フック首相とも会談した。今月1月には阿部俊子外務副大臣がベトナムを訪れ、今月4日にはレー・タイン・ロン・ベトナム司法大臣が来日して会談を行っている。  しかしながら、これらの会談はベトナムの人権活動家たちの期待を裏切るかたちで終わった。経済的パートナーシップについては話があったものの、日本政府側は政治囚をはじめベトナムの人々に対する極めて深刻な人権侵害について言及しなかった。日本政府がミャンマーなどに対しても、中国の脅威に対抗するため民主主義的価値観を犠牲に展開している「無価値観外交」がベトナムでも浮き彫りになったのだ。

日本政府は民主主義や人権を尊重する外交を

 たしかに、中国とベトナムは親しい隣国同士であり、ともに同じ「共産党」と名が付く政党の一党独裁体制によって支配されているものの、戦争と対立の長い歴史や傷跡も残っている。ベトナム市民の間では、中国の影響力に疑念や抵抗感が生まれており、同時にベトナム政府は最大援助国の日本との友好関係を重宝している。  だからこそ日本政府は、人権問題に触れることでベトナムの「振り子」が中国に傾いてしまうという懸念に固執せず、その絶妙な立場を利用してベトナム市民のために声を上げるべきだ。そうすることによって、ベトナムの活動家たちは勇気づけられるだけではなく、日本政府は民主主義や人権を尊重する外交政策に向かって舵を切れるのではないだろうか。 <文/笠井哲平> かさいてっぺい●‘91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。‘14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。‘18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
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