国民監視とネット世論操作はこう行われる! エクアドルの事例

一田和樹
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Image by Gerd Altmann from Pixabay

 ラテンアメリカのいくつかの国では、政治に大きな影響を与える共通の要因がある。石油価格下落による経済悪化と、複数の政治家によるネット世論操作だ。国際関係でキーとなるのは、アメリカ、ロシア、中国との関係である。エクアドルもこれらの要因によって国内の政治が大きく変動した。

前大統領コレアによる国民監視とネット世論操作

 2018年7月19日に公開された『STATE-SPONSORED TROLLING』(INSTITUTE OF FUTURE、Carly Nyst、Nicholas Monaco)によると、エクアドルにおける報道の自由は2002年から2015年にかけて急激に悪化した。前大統領コレアの元で言論の自由は抑圧され、その一方で政府のプロパガンダやトロールの活動が広がった。  このレポートでは同国内で活動する風刺作家とジャーナリストの事例を取り上げている。コレア大統領は自分を批判する相手を非難し、個人情報を暴露し、攻撃するよう呼びかけた。  風刺作家は匿名アカウントで政府を批判する風刺のミームを流していたが、コレアは作家の正体を暴き、攻撃するよう民衆に呼びかけた。作家の電話番号、IDナンバー、住所や本名、年齢、両親の名前、写真などに加えて暗号化されていた契約書まで復号化されてさらされる事態となり、彼はネットでの活動を辞めざるを得なくなった。  ジャーナリストも同様のいやがらせと攻撃を受けた。ジャーナリストの容姿を笑いものにし(ジャーナリストは女性だった)、レイプや殺人の脅迫がトロールたちによって行われた。またCIAの手先という中傷まで行った。  言論弾圧と並行して監視強化も行われていた。2009年には諜報機関SENAINを設立している。  SENAINは2012年から2014年にかけてイタリアのサイバー軍需企業Hacking Teamからスパイウェアを購入し、少なくとも8名の反政府活動家、政治家、ジャーナリストに対して使用したこともわかっている(参照:Associated Whistleblowing Press and Ecuador Transparente 2015)。  また、ラテンアメリカでPackRatと呼ばれる7年に及ぶハッキング作戦が行われていたことが、シチズンラボによって明らかにされている(参照:『PACKRAT Seven Years of a South American Threat Actor』2015年12月8日)。誰がなんのためにPackRatを実施したかはいまだに不明であるが、前述の風刺作家とジャーナリストはPackRatのターゲットになっており、エクアドル政府の関与が疑われている。

テクノロジーを利用した国民監視システム

 2012年12月12日、『Ecuador Implements “World’s First” Countrywide Facial- and Voice-Recognition System』(SLATE)がエクアドルが世界で最初に顔認識システムと音声認識システムを導入した国家となった記事を掲載した。  次いで2013年6月25日の『Exclusive: Documents Illuminate Ecuador’s Spying Practices』(BuzzFeed News)では、同機関がイスラエルから国民監視システムを購入したことが暴露されている。  前述のPackRatは2012年から7年間にわたり、エクアドルの反政府活動家、政治家、ジャーナリストに感染し、監視していた。  2016年にはエクアドル政府と2つのネット世論操作企業との契約書がリークされた。この契約にはフェイクアカウントを利用してのネット上でのプロパガンダの流布や政府を批判する者への攻撃が含まれていた。  またスペインのダミー著作権管理会社で悪用しデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を不正に利用して、YouTubeなどの自分を攻撃するコンテンツを削除させていた。コレアはその他にもメッセージング用のネット世論操作企業にもカネを払っていたことがわかっている。ラテンアメリカではネット世論操作産業が活発であり、エクアドルも例外ではないということだ。  一連の動きを見るとコレア政権では諜報機関SENAINを軸とした言論弾圧、監視が推進されていたことがわかる。
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コレア政権下では中露接近だった
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いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。
 近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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