ダム偏重政策が招いた「肱川大水害」。今こそダム建設継続より肱川の河道改修に全力を投じよ

牧田寛
手つかずの国道197号線崩壊箇所

手つかずの国道197号線崩壊箇所 仮設道路側に崩壊が進んでいる 2019/3/21 撮影 牧田

肱川大水害、逃げる国交省と愛媛県

 昨年末の第八回以来、著者の転居や日韓軍事的インシデントシリーズの執筆によって連載が止まっていましたが、肱川大水害シリーズを再開します。なお、本記事も配信先によっては画像やレファレンスリンクが表示されない場合がありますので、その際はHBOLのサイトでご覧ください。  昨年7月7日、肱川水系では、野村ダムより下流約80キロメートル全流域で幹線道路路面から2~5mの浸水の大洪水となり、数多くの集落が壊滅的打撃を受けました。年が明けて1月22日には、野村小学校体育館にて“「野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場」とりまとめ等の説明会“が野村小学校で開催され、激しい市民の怒りの発露の場となり、予定の21時を大きく過ぎて22時台にまで時間が延びましたが、これによって国交省と愛媛県は逃げ切りを図っているようです。  この連載で指摘しました様に肱川水系は、過去70年の治水事業が徹底したダム偏重であり、野村ダムから下流域80kmでは、無堤地区、暫定堤防、暫暫定堤防といった、事実上の無治水地区が流域の大部分を占めており、治水がなされていたのは、鹿野川ダム湖と大洲市西大洲のごく一部(数キロメートル程度)という一級河川とは考えられない極めて異常な河川事業の集大成であったといえます。  行政が問題を「ダム操作」に限定して逃げ切りを図っていますが、これは、ダム管理事務所の職員を矢面に立たせて県と国交省は逃げを図る工作に過ぎません。

必要な説明から逃げ、安全性だけ流布した結果の産物

 ダムは、治水、利水などの用途、重力式、アーチ式、アースダムなどの形式を問わず、一部の流水ダム(穴あきダム)や砂防ダムを除き、堤体を越水すればダムは制御機能が失われるだけでなくダム崩壊を極めて高い確率で起こします。全面ダム崩壊を起こせばダム津波によって下流域は壊滅しますし、部分崩壊でも鉄砲水で下流域には甚大な打撃をもたらしますので、洪水がダムの限界を超える場合には、ダムは「但し書き操作」(異常洪水時防災操作のこと。特例操作や緊急放流とも呼ばれる)を行い、そこにダムが存在しないのと等価の洪水を一挙に引き起こします。とくに肱川水系のようなタンデム配置のダムの場合、上流側のダムが崩壊すれば下流側のダムも連鎖崩壊してカスケードダム津波を起こしますので、ダム操作者は、有無を言わさず但し書き操作を行わねばなりません。下流域の避難を考慮するにしてもその時間調整は、精々十数分程度でしょう。  これは、玄倉川水難事件や、飛騨川バス転落事故でも見られたことで、限界を超えたダムは、人為的に但し書き操作を遅らせることはほぼ不可能です。BWR(沸騰水型原子炉)と全く同じくダムにはこの点での受動安全性が欠けており、原子炉は破裂する前にベントによって内圧を下げますし、ダムは限界に達すれば但し書き操作によって一挙に流下流量をダムがない状態と同じにします。  原子炉では、シビアアクシデントの制圧に失敗した場合、市民が逃げようと逃げざろうと限界に達すればベントをして放射能入りの蒸気を外界へ大量に放出せねば原子炉が破裂して破滅的な放射能漏洩を起こします。後者が福島第一2号炉で起きたことです。不幸中の幸いにも、合衆国の設計が優秀だったためにチェルノブイル核災害ほどには至りませんでしたが、福島核災害を世界最悪級の核災害にしたといえます。  ダムの場合は、市民が逃げようと逃げざろうと、限界を超える前に但し書き操作に入り、調節機能を放棄しますが、それによって生ずる洪水は、ダム崩壊によるダム津波を下回ります。肱川水系では、これが生じた訳です。  ダム防災と原子力防災は、その構造が極めて酷似していますので、対比して考えると双方の理解が進みます。  ダムが限界を超え、ダム崩壊を起こさぬようダムを守ることが下流域の市民の命を守ることであって、それが、但し書き操作を行う倫理的基盤となっています。  これが、ダムを守る=下流域の市民を守る=但し書き操作は市民を守るために行ったという論理です。  このような説明が事前になされていれば、自治体や市民は長い年数をかけて対応することも出来ましょうが、日常的にダムがあれば安全安心という作為的なPA活動=ヒノマルダムPA*が行われた結果、自治体、市民ともにダム安全神話に幻惑され、ダム下流で洪水が起きるなど夢想だにしていなかった事実があります。 <*PA=Public Acceptance=パブリックアクセプタンス:社会的受容 原子力発電所、ダム、高速道路や、新ワクチンなどその事業が社会(多くは地域社会)に大きな影響を与える場合、事前に社会的合意を得ること。民主社会において重要な手続きである。  しかし日本においては、PAと称して、詭弁、ごまかし、嘘、便宜供与、恫喝など、「嘘と札束と棍棒」によって市民を分断し、服従させる手法がまかり通っている。これは本来のPAを換骨奪胎した日本独自の異常なものである。筆者はこれらを(親方)ヒノマル◎◎PAとして本来のPAと区別している>  このダム安全神話を流布し、ヒノマルダムPAによって市民、流域自治体を欺してきた責任は100%、河川管理者と治水事業管掌者すなわち愛媛県と国土交通省にあります。また、ヒノマルダムPAに長年加担してきた学識者=田舎御用名士にも最大級の重責があります。 「野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場」においても、”住民が高い自覚(意識?)を持って避難しなければならない”という意味合いの暴言が飛び出し、住民の怒りの火に油を注ぐことになりました。検証会では「情報の受け手、住民が、情報を生かせていない」*として、被害を住民と流域自治体に責任転嫁するものとなっています。 <*野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場(とりまとめ)抜粋(他多数資料に同じ表現がある)>  現場を矢面に立たせて裏で住民に責任転嫁、分断する手法は、福島核災害において大規模に行われている手法であってヒノマルPAの濫用とともに常套手段と言って良いでしょう。
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写真で見る驚愕の「無治水」状態
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