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宝永7年(1710年)、著名な儒学者貝原益軒が和俗童子訓を著わした。その第5巻「教女子法」は、「嫁入り前の娘」に対して、教えるべき人生訓を示した。以下のような内容である。
義父母を敬え
夫を主君として仕えよ
夫に逆らうな
言葉を慎め
家事に専念しろ
倹約しろ
貞操を守れ
・・・
明治政府は、武家の家族制度を取り入れ、夫を家長、妻をそれに従う無能力者とする明治民法を制定した。教育においては、教女子法の精神を取り入れて良妻賢母主義を推進した。これらの法的、社会的、文化的規範が、男尊女卑、性別役割分担、夫を家長とする家族観を形成し、今日まで受け継がれてきた。私は、これら社会的文化的規範(群)を総称して、モラ文化と呼んでいる。
モラ文化を行動規範として内在化している多くの日本男性は、自らを家長/支配者、妻を従属者として捉える。そして、支配確立の手法として、怒る(切れる)、長時間説教などが行われるのは、前回ご説明したとおりである。
モラ夫は、自分が満足する程度の支配従属関係を確立できないと暴れ出す。DVに対する社会的非難が確立しつつあるため、例えば、50年前と比べると、実際に物理的暴力を直接振るう男性は減ったと思う。
ただし、警察庁の統計によると、DV保護法が施行された2001年以来、警察でのDV等の相談件数(直接的暴力だけでなく、間接的暴力、モラハラも含まれている)は増え続けている。(参照:
警察庁)
これは、直接的暴力の実際の件数が増えたのではなく、DV等を警察に相談することへの敷居が低くなったためと考えられる。
さて、直接的暴力が減った反面、間接的暴力の事案は飛躍的に増えた。
間接的暴力とは、例えば、つぎのようなものである。
テーブルを叩く、妻を睨みつける。ドアを思い切りバタンと閉める。妻のいる方向に物を投げる。物を壊す。壁にパンチするなどである。
自室にこもって暴れるモラ夫もいる。これらの場面が、隠し撮り、隠し録音されることがある。担当案件の録画、録音を点検すると、ヒステリー状態で怒鳴り散らし、暴れ、理性を失っているとしか思えない。
隠し玉(証拠)の存在を知らず、家裁で、自ら怒鳴り散らしたり、暴れたりしたことを否定するモラ夫に何回も遭遇しているが、家裁での紳士然とした振舞いと、録画、録音との落差に声も出ない。
間接的暴力が始まると、直接的暴力の危険が飛躍的に高まる。暴れるモラ夫に強く言い返したりすると、危険である。直接的暴力を抑え込んでいた、理性の最後のネジがぶっ飛ぶ可能性がある。