2月に八幡浜PA集会で説明を聞くまで、私は、日本が導入するであろう乾式貯蔵キャスクは、合衆国の長期保管向けコンクリートキャスクまたはそれに匹敵するものを屋内管理することになるであろうと考えていました。
私は、高い柔軟性と受動的安全性を持つ乾式キャスクによるSF保管は今後数世紀にわたる決定版であって、積極的に取り入れるべきものと考えていました。
ところが現実には、
合衆国のそれと全く異なり極めて柔軟性に乏しく40年後には10年後に使い物にならなくなる代物を抱えて右往左往することが確実なガラクタがそこにはありました。しかも
価格は3〜10倍です。
地元への経済効果も建屋建設のごく一部と警備員雇用程度で雀の涙。寿命が限定され、熱に弱いエポキシを使って
受動的安全性もヘッタクレもありません。輸送中程度の時間ならかまいませんが、
半世紀運用するものの最重要の中性子遮蔽体にエポキシを使うことは受動的安全性と柔軟性を著しく損ないます。工学的、工業的には極めて欠陥のある思考です。もちろん、エポキシの寿命期間内に最終処分のために持ち出されるのならば問題はありませんが、日本ではその最終処分が絶望的ですし、核燃料サイクルはすでに破綻が決定的です。
しかもキャスク現地製造は出来ず持ち込みです。日本原子力業界の宿痾である、
利益の仲間内での徹底した囲い込みがそこにはあります。ずいぶんと立地自治体と需要家はバカにされたものです。私は、説明を聞いて、思わず”Flaming Thunderbolts!”とつぶやきました。余りの程度の低さに心底、心底落胆です。
こうなってしまった原因は、すでに20年遅延で完成しても商用的には完全に失敗(製品価格20〜50倍)の六ヶ所再処理工場に完全に依存していること、更に空想の存在でしかない第二再処理工場(旧第三再処理工場)にも依存していることがあります。
六ヶ所再処理工場は事業費が16兆円と見込まれます*が、
遅延と福島核災害の影響、更にデコミッション費用の暴騰から、30兆円迄高騰する可能性があります*。更に第二再処理工場は12兆円という見積もりですが、これは技術的に全く目処が立っておらず、更に再処理したMOX-SF由来のプルトニウムは軽水炉では燃えません。高速炉・高速増殖炉でなければ燃えない代物です。デコミッションも含めて50兆円の覚悟も要し、福島核災害で100兆円その他で100兆円、合計200兆円と私が見込む核の負債を250兆円に跳ね上げます。これは
日本の一般会計予算の2.5倍に相当します。
(*:実はこの数字は嘘で、あらゆる経費を過小評価している。経産省で2004年に起きた“19兆円の請求書”事件に示されるように、核燃料サイクルの総費用は2004年時点で19兆円を超えており、東海再処理施設などの前例を根拠の概算すれば、2004年時点での概算で50兆円超えすら指摘されている)
合衆国ではバックエンド総費用を10兆円と見込みますが、合衆国の半分以下の規模である日本が極端な過小評価によるペテンをしても、サイクルで16兆円、第二サイクルで12兆円の公称、公称だけで合衆国を電気出力当たり6倍を超えますが、現実にはバックエンドも含めて100兆円(電気出力当たり25倍以上)を超える可能性があり、これは構想そのものが破滅しています。
破滅した計画に依拠した事業の先には破滅しかありません。
核燃料サイクルという合衆国には50年前に見限られ放棄された計画に原子力後進国が夜郎自大にもしがみついてきた結果が福島核災害でありますが、現状のガラクタ中間貯蔵計画もそうであるといえます。
とくに四国電力伊方発電所では、
原子力PAシリーズ第二回(4ページ目)でご紹介した長沢啓行博士による指摘*では、1号炉2号炉SFPを残存させればSFP枯渇問題は3号炉寿命の40年間生じません。経営基盤が脆弱な四国電力が急いで導入する理由は全くないのです。要はたんなる業界序列の慣例というくだらない愚劣な因習によるものです。
(*:部分再掲。
1) 原子力発電はすでに質(経済性)、量(発電容量)ともに競争力を失っており、内包するリスクに対して運転する意味は全くない。
2) バックエンド(最終処分)は全く方策が決まっておらず、今後数十年かけても無理だろう。従って、デコミッション(廃止措置)において、解体廃止はすぐに行き詰まる。
3) 従って、伊方1,2の解体廃止による1,2号炉SFPの運用中止・解体を前提とした3号炉SFP容量枯渇には根拠がない。
4) 故に、乾式貯蔵キャスク貯蔵施設の建設も根拠がなく無意味である。)
また、原子力PAシリーズ
第一回、2ページ後半での指摘を再掲します。
”少なくとも、ドライキャスクによるSF暫定管理は、21世紀の世界の原子力産業にとって標準的なものであり、合衆国式のコンクリートキャスクではF-16級の小型軍用機の突入まで検討した、安全性に優れたものであると考えて良いです。ただし、日本人は和魂洋才ではありませんが、舶来の優れた技術をゴミにする類い希な能力を持ち、世界の標準が危険なガラクタに化けることは福島核災害が証明しています。従って慎重に事実を元に検証しなければなりません*。
(*:福島第一1号炉を建設したGEは、非常用発電機と電源系統を二階以上の高所に設置することを提案したが、東京電力は拒絶して地下に設置した。結果、津波による浸水で全電源喪失し、加えて非常用冷却装置(IC)の使い方を知らなかった日本人は、原子炉を爆発させた)”
八幡浜説明会以後、詳細に検討しましたが、懸念は現実のもので、極めて柔軟性に欠け脆弱なワンショット・ライター(一式陸攻)に相当するヒノマルゲンパツ乾式貯蔵が現実であり、極めて劣悪な代物で、40年後に日本中で危機的な政治問題と化することは確実でしょう。
「今だけ、カネだけ、自分だけ」を象徴する愚挙であると考えます。
乾式貯蔵技術はすでに確立した技術です。それをここまで愚劣なものに変えるその才能には感心する限りです。まさに”Flaming Thunderbolts!”であり、「がっかりだ!」です。
ゼロからのやり直しを断固として求めます。ペテンはやめなさい。
本稿、次回に続きます。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編−−5
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo by
Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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