非常に密度の高く、国立大の共通教育の講義が出来る内容でしたが、20分の時間いっぱいの質疑がなされました。牧田も4つほど質問をし、現職の市議数名ほか市民からの質問もありました。
やはり、安全性は十分であるか、50年後にどうなるかといった質問がありましたが、妥当な応答であったと思います。とくに興味を持たれたのは、伊方で今後、炉寿命40年として、最大限MOXを燃やすと何本のMOX・SFが生じるかというものでした。現在の使用中・未使用MOXの在庫は21体です。内訳は、原子炉内で使用中が16体、未使用在庫が5体。Puの在庫はフランスに残り1体分で英国に残り 21~22体分ありますが、契約最少量に満たず現在時点でMOXへの加工は出来ません。仮に何らかの手法ですべてをMNOXとしても総計で42~43体分であり、他電力のMOXを押しつけられない限り、四電本社の庭にでも置いておける分量です。ただし、60年運転で他電力のMOXを押しつけられた場合、1/4MOX装荷で最大400体余りの使用済MOX燃料が発生する計算になります。
この講演は、かなり内容が高度であって、理解が難しいところが多々ありました。とくに前項の1)で触れた、伊方におけるSFP容量とSFの本数の関係は、私でも1時間ほど検証に時間を要しました。聴衆が理解し得たかについては、悲観的になるほかありません。
前後を並べ替えて論旨は次のようになります。
1) 原子力発電はすでに質(経済性)、量(発電容量)ともに競争力を失っており、内包するリスクに対して運転する意味は全くない。
2) バックエンド(最終処分)は全く方策が決まっておらず、今後数十年かけても無理だろう。従って、デコミッション(廃止措置)において、解体廃止はすぐに行き詰まる。
3) 従って、伊方1,2の解体廃止による1,2号炉SFPの運用中止・解体を前提とした3号炉SFP容量枯渇には根拠がない。
4) 故に、乾式貯蔵キャスク貯蔵施設の建設も根拠がなく無意味である。
5) 乾式キャスク貯蔵施設の建設は、四国電力が主張するような安全性の向上には全く効果が無い。むしろ新たな熱いSFがSFPの中に増えてゆき、危険が増すだけである。
6) 四国電力は、形式的に1,2号炉の解体に着手し、結果として行き詰まる3号炉の運転を可能としたいだけである。
7) 日本の乾式キャスク貯蔵は50年の寿命しかなく、そのあとが行き詰まり、たいへんに困ることになる。
8) 原子炉の解体廃止は日本では不可能であり、「長期密閉管理」に移行すべきである。これによって廃炉作業時に問題となる誘導放射能(鉄など原子炉材料が中性子線を浴びることによって放射能を持った物質)は、100年程度の密閉管理でほぼ無くなり、遙かに安全且つ作業が容易となる。
9) 被曝労働の発生、次世代への責任という視点からも、無意味な原子力発電の運用でこれ以上の放射性廃棄物の発生は許されない。
10) 伊方発電所は直ちに運転を取りやめ、廃止措置について根本的に見直しの上で長期間をかけて後始末すべきである。
この連載は、四回を予定しており、次の第三回では、
賛成の立場からの
奈良林直博士(東工大特任教授)の講演をご紹介します。
私は、原子力に反対を主張する学者の講演を余り聴講したことがなく、長沢氏の講演はたいへんに興味深いものでした。ただ、様々な聴衆があつまるPA講演会では、かなり難解な講演となり且つ、聴衆が最も興味を持ち、
八幡浜市の将来にも深く関わる50年、60年後に何が起こるのかという事については物足りないと感じました。
PAに長沢氏のような反対の立場の人間を呼ぶという試みは日本では歴史がきわめて浅く、やむを得ないことではありますが、やはり主催者側にも改善の余地は多々あります。
いずれにせよ、とても面白く、有意義な講演でした。
なお、日本におけるSF乾式貯蔵所問題の理解と議論には、原子炉解体についての一般的知識が必須です。次の映像が極めて有用です。
●
NHK特集「原子炉解体 ~放射性廃棄物をどうするか~」 (1988年6月27日 総合 45分)
●
NHKスペシャル原発解体 ~世界の現場は警告する~ 2009年10月11日 総合45分
NHKのドキュメンタリー番組全般にいえることですが、古い作品はとても優れています。前者は特におすすめですが、両者を視聴比較すると、日本の後進性が露わになります。視聴は、再放送のリクエストや、各県の視聴センターでの視聴となります。
※2019年2月27日追記
今記事で下記について筆者の見落としにより記事が誤っていましたので訂正します。なお、本記事中の該当箇所はすでに修正しております。
★1ページ目「反対の立場で語った長沢啓行博士」中程
誤)3)使用済み核燃料ピット(SFP)優位論の誤謬
正)3)乾式貯蔵キャスク優位論の誤謬
★2ページ目、
1)四国電力は、何のために乾式貯蔵を行うのか
●冒頭1行目
誤)伊方発電所には、全炉合計2069体のSFP容量がある。
正)伊方発電所には、全炉合計2609体のSFP容量がある。
●同項中程
誤)これによって新たに20年分以上(約24年弱)のSF貯蔵量用を加えることにより
正)これによって新たに20年分以上(約24年弱)のSF貯蔵容量を加えることにより
●同項中程
誤)あくまで3号炉運転期間を稼ぐためである。
正)あくまで3号炉の運転期間を稼ぐためである。
●同項終盤
誤)解体廃炉はすぐに中止に追い込まれるであろう。
正)解体廃炉はすぐに中断に追い込まれるであろう。
2ページ目、
3)使用済み核燃料ピット(SFP)優位論の誤謬項見出し
誤 3)使用済み核燃料ピット(SFP)優位論の誤謬
正)3)乾式貯蔵キャスク優位論の誤謬
★2ページ目、
4)核燃料サイクルの現状とプルサーマルの矛盾
●中盤
誤)もともとPu在庫量の少ない四国電力や九州電力の場合は、MOX燃料あと1〜2体分のPuを消費すると責任分を全量消費し尽くすが
正)もともとPu在庫量の少ない四国電力や九州電力の場合は、フランス在庫分に限ればMOX燃料あと1〜2体分のPuを消費すると責任分を全量消費し尽くす(英国には、それぞれ数十体分とさらに多くのPuの在庫があるが、英国の都合と契約上の問題でMOX化の目処が立たない)が
★2ページ目終盤、※増殖率・転換比の説明内
誤)ATRの場合は、0.7であり、この場合「転換比」0.7と呼称する。軽水炉の場合は、転換比0.4以下であり、現実には自分で燃焼してしまう分もあって、実効転換比は0.1程度である。
正)ATRの場合は、0.7~0.8であり、この場合「転換比」0.7~0.8と呼称する。軽水炉の場合は、転換比0.6~0.7である。現実には自分で6割ほど燃焼してしまうため、転換比は0.3程度であるが転換されたPuのうち発電に使える239Puと241Puのみで評価すると、0.1~0.2程度となる。
★3ページ目、
8)地震・火山国日本の特異性中盤
誤)ただし、四国だけは第四期火山が存在しない。
正)ただし、四国だけは第四紀火山が存在しない。
★4ページ目、
2段落目
誤)50年後にどうなるかと行った質問がありましたが、
正)50年後にどうなるかといった質問がありましたが、
誤)現在の使用済・使用中MOXの在庫は48体で、Pu在庫は残り1体分で50体分足らず、他電力のMOXを押しつけられない限り、四電本社の庭にでも置いておける分量です。
正)現在の使用中・未使用MOXの在庫は21体です。内訳は、原子炉内で使用中が16体、未使用在庫が5体。Puの在庫はフランスに残り1体分で英国に残り 21~22体分ありますが、契約最少量に満たず現在時点でMOXへの加工は出来ません。仮に何らかの手法ですべてをMNOXとしても総計で42~43体分であり、他電力のMOXを押しつけられない限り、四電本社の庭にでも置いておける分量です。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編−−2
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についての
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