乾式貯蔵技術を米国とはまったくの別物に変えたヒノマル原発産業の宿痾

SFPとSFの潜在的危険性が顕在化した福島核災害*

(*:英語圏では、一般に福島第一原発事故ではなく福島核災害Fukushima Nuclear Disasterと呼称される。身近な例ではJapan Timesが挙げられる。一方で、NRCではFukushima Nuclear Accidentが使われている。(参照:「Japan Times」)  この安全性に差異が無いという結論は、意外に思われる方が多いと思いますが、誤りではありません。SFPは正常に人間による管理が行われている限り、たいへんに効率的で安全なSF保管方法です。  しかし、シビアアクシデント(過酷事故, SA)や天災によりSFPが人の管理から外れると、SFPの安全は崩壊します。福島核災害では、4号炉SFPに熱い使用済み核燃料が大量に存在し、その状態確認も電力と水の供給も長時間途切れたことから、合衆国はSFPにおける使用済み核燃料溶融を強く懸念し、横田基地からの合衆国市民の緊急脱出を行いました。  既述のように、まさに僥倖(ぎょうこう)、天佑(てんゆう)と言って良い全くの偶然で4号炉SFPは、偶然に水が張られていた本来は空である隣接する水ピットから大量の水が流れ込み、冷却が維持されたことにより、箱根以東の東日本全域が無人の核の荒野となる最悪の事態は避けられました。この水ピットに水が張られていたのは、偶然に作業が遅れていたためであって、この水ピットからSFPに水が流れ込んだのは、偶然に水密ドアが壊れたためでした。  このことは、後日空撮によって4号炉SFPで水面が光っていた事が壊れた建物の隙間から確認され、日米政府関係者を大きく安堵させました。その存在するはずのない大量の水がどこからやってきたのかが謎でしたが、更に後日、機器仮置きプールの水密ドアが壊れ、SFPに水が流れ込んでいたことが確認されました。  これまでの連載で指摘してきましたとおり、SFPの管理崩壊による開放系でのSF溶融ないし破損は、原子力・核災害の中では最悪といえるものです。福島核災害では、これにより福島第一の無人化と全炉、全SFPの崩壊と溶融、連鎖して福島第二の無人化と崩壊・溶融、大洗・東海村核施設の無人化と崩壊・溶融によって東日本だけで4千万人前後の難民化と大量の犠牲が予想され、この場合日本政府は消滅していたでしょう。もちろん、自衛官、消防官、警察官を欺し、JAEA、原電、東電職員に強制して決死の作業を行わせた可能性も否定出来ません。福島第一では、欺された自衛官と消防官が3号炉爆発に巻き込まれました*。時間を遡り、JCOでの臨界事故では、決死作業を渋るJCO職員に、作業の強制を示唆したことが知られています。福島核災害でも同様のことが行われています。これらは憲法第18条**違反ではないかと著者は考えています。 (*:“福島第一3号機爆発 自衛隊員ら11人ケガ|日テレNEWS24” 2011/3/14/当時、自衛官や消防官は、もう爆発はあり得ないと説明されていた) (**:日本国憲法第十八条/何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない)  通常時において乾式貯蔵に比して安全性に見劣りがしない、部分的にはより安全であるSFPですが、人の手が加えられなくなると極めて脆弱となります。これを固有安全性の欠如と言います。現在主流の第二世代原子炉を代表として、商用原子力技術は熱力学的には固有安全性が低く、必ず人が手を加え、外部からエネルギーを供給する必要があります。但し、合衆国式の軽水炉を代表として、旧西側の原子炉は、核反応においては固有安全性が確保されています*。 (*:低出力域の核反応において固有安全性が低かったのがソ連邦のRBMK(LWGR)通称チェルノブイル型炉であった。この固有安全性の欠如からチェルノブイル4は、核暴走、原子炉内部構造破砕、水蒸気爆発、水素爆発の順で原子炉崩壊、チェルノブイル核災害に至った。ソ連邦では、運用マニュアルによって固有安全性の欠如=炉の欠陥を補っていたが、その欠陥を知らされていない現場では、運用マニュアル逸脱による実験を行っていた。一方で合衆国では、同じく低出力域での固有安全性に疑問を持たれていたBWRについて、原子炉暴走・破壊実験を含む徹底した実証実験によって固有安全性を確認の上でBWRを実用化している*。これまでの災害、事故、インシデントの経験により日本を除く原子力開発国では、熱力学的な固有安全性を持つ第三世代プラス(3G+)を実用化しているが、中露以外では建設費暴騰によって経済的に失敗している) (*:参照『原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたか』石川迪夫著・日刊工業新聞社刊。ちなみに大変な良書である)  SFPの中にあるSFが、十分に冷えた人肌程度の温度のものであるならば、SFPが人の管理から離れても数ヶ月から1年程度は水が枯渇しませんが、現実の原子力発電所では、新たなSFが定検のたびに供給されますので、SFPの固有安全性の欠如は憂慮すべき事です。そのため、できるだけSFPに収容されているSFを減らし、SFPの空間的、熱的余裕を増やす必要性が福島核災害で強く認識されました。SFPに収容されているSFの数が減れば、それだけ発熱量が減少し、水の熱容量と気化熱(潜熱)による熱力学的固有安全性が高まります。

「使い分け」と「暫定」が大前提のSFPとドライキャスク

 ドライキャスクの場合は、除熱能力の欠如から取り出し直後のSF、使用済MOX、高燃焼度SFの収容は出来ない(安全性が未実証)のですが、十分に冷えたSFは、一度収容するとエネルギーの投入や人間による積極的管理を要さない、高い固有安全性を持ちます。  一見して素人目に安全に見えるドライキャスクですが、火砕流などの高温の熱源に長時間晒された場合はSFPと差がありません。また、大津波や大洪水で流され、長期間水没した場合も同様です。そのため、SFPやドライキャスクも原子炉本体と同じく火砕流や水害からは完全に守られる必要があります。地震や航空機突入で転倒しないように厳重に固定されることも求められています。とくに火砕流は深刻で、有機物の発火点を遙かに超えるような高温の物質に埋没した場合、SFからの除熱が長期間不可能となり、逆に加熱されますので、条件によってはSFの破損や溶融まで発生し得ます。九州電力川内発電所など、過去に10mを超える大火砕流に埋没した土地に建設された原子力発電所が日本には複数存在します。なお、火砕流は水より軽いために海や河川湖沼は障害とならず、水面を疾走します。  SFPとドライキャスクは、併用と使い分けによってSFPが10年単位の比較的短い期間、ドライキャスクが50〜100年程度の暫定的なSF管理に本来用いられるものです。決して永久保管に用いるものではなく、それぞれ一長一短があって適切に使い分けられるべきものです。
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