ブラジルの極右大統領、ボルソナロ勝利の影にもあった、「ネット世論操作」

ブラジルにおけるネット世論操作

 ブラジルでも、国内でネット世論操作が行われており、フェイクニュースも多い。これに対抗するファクトチェック組織も活動している。  ブラジルはインターネット利用者が世界5位と多く、急速に普及し広く受け入れられた。同国は2009年からインターネットの法整備に着手し、インターネットの憲法とでも言うべき「Marco civil da internet」を何回かのドラフトを経て2014年に上院で可決した。  インターネットの普及によってフェイクニュースやボットを用いたネット世論操作も登場した。  海外からの干渉もいくつか指摘されている。シンクタンクFGVDAPP(Department of Public Policy Analysis of the Getulio Vargas Foundation)のレポート『Computational Propaganda in Brazil:Social Bots during Elections』(2017年8月、Dan Arnaudo, Samuel Woolley and Philip N. Howard, Eds. Working Paper)によると2014年のリオデジャネイロでの選挙にロシアからボットを利用した干渉があったことが指摘されている。  また、アメリカ大統領選においてフェイスブックから大量の個人情報を入手し、ネット世論操作に利用したことで知られるケンブリッジ・アナリティカはブラジルにおいても活動していたことが明らかになっている。  ボットによる世論操作も多い。『BOTS, SOCIAL NETWORKS AND POLITICS IN BRAZIL』(2018年5月15日、FGVDAPP)などでも取り上げられている。この記事では、2014年から2017年の間の6つの大きな政治的出来事を取り上げ、ツイッターのボットの動きを解析した。その結果、全てのケースでボットが広く使われていたことがわかった。それもひとつのグループではなく、両極端の過激なグループが互いにボットを使って攻撃し合っていたことが判明している。  SNSを用いて政敵を攻撃するネット世論操作は遅くとも2010年の大統領選の時には始まっていた。この時、自動的にメッセージを拡散するボットをすでに利用していた。2008年のオバマが当選したアメリカ大統領選でボットが使用されたことが参考になったようだ。  2013年、バス料金値上げで火のついた抗議活動は、物価全般の上昇や汚職への怒りにまで広がった。The Globo Networkのなどの大手媒体は抗議活動を少数の無政府主義者に扇動されたものとしていたが、Media Ninjaなどのオルタナティブメディアが抗議活動の真実と警官の暴力行為を暴いた。参加者は100万人を超えた。インターネットの普及までにはこれほどの人が参加する抗議活動はなかった。抗議活動参加者のメッセージはフェイスブックの動画や投稿、YouTube、WhatsApp、ツイッターなどのSNSで拡散されていった。なお、ブラジルのネットユーザの多くはスマホでアクセスしており、WhatsAppの利用が多い。  2012年にブラジル政府はサイバー防御のための組織をまとめてCDCiber(Cyber Defense Center)を設立した。この組織は特にオリンピックのような国家的なイベントに対応するためのもので、SNSへの問題となる投稿や抗議行動に参加したもののアカウントを監視した。

2014年の大統領選もボットの政治利用が活発

 シマンテック社によればブラジルは世界で8番目のボット大国である(『2016 Symantec internet security threat report』、2016年)。The Spamhausの『The top 10 world botnet countries』(2017年)によれば485,133のボットネットが発見されたという。  前掲書(『Computational Propaganda in Brazil:Social Bots during Elections』)によると2014年の大統領選は初期のボットの政治利用のケースとしては、さまざまな研究が行われ、レポートにまとめられているという。多くのレポートで大統領候補のジルマ・ルセフ、アエシオ・ネベスのどちらもボットを利用していたことが明らかになっている。たとえばテレビでの公開討論の開始15分で片方の候補のハッシュタグをつけたツイートが通常時の3倍に増加した。調査によるとこのボットの活動の対価(130,000レアル)がある人物に支払われた。  ボットを利用したネット世論操作はツイッター、フェイスブック、WhatsAppを用いて行われ、選挙キャンペーン期間全体で推定1千万レアル使われたという。  ある政治コンサルタントによれば、WhatsAppは政治的なメッセージを送るのに適しているツールだ。そのコンサルタントはスタッフ1人につき約250アカウントの運用を任せていた。  上場企業Brazil Linkerはフェイスブックのいいね!を1つ当たり4.99から5レアル、3,000だと200レアル、書き込みは10,000をたった90レアルで売っていた。  選挙期間中、対立候補のフェイスブックグループには1,600万人が参加していたが、勝利した大統領候補の党のフェイスブックには300万人しか参加していなかった。また、対立候補のサイトには8,000万人がアクセスしたが、勝利党のサイトを訪れたのは2,200万人だった。  選挙が終わった後、勝利党のボットは活動を停止したが、対立党のボットはそのまま活動を続けた。
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前大統領罷免の原動力もネット世論
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