高レベル放射性廃棄物最終処分場選定に関する説明会に行ってきた

終盤にはやや雰囲気も穏やかに……

 テーブルトーク型対話も終盤になるとかなり雰囲気も穏やかになってきました。NUMOの年配の職員は、どうやら動燃から核燃料サイクル開発に携わってきた研究者のようで、そもそもHLW/TRU問題がここまで深刻化してしまったのは、高速増殖炉開発に失敗したからで、やはり原子力の本命は高速増殖炉であり、それ自体を諦めた訳ではないとのことでした。これは工学的には当然のことで、仮に商用高速増殖炉の実用化がなされていれば理屈の上ではHLW/TRU問題は自ずと解決します。
坪谷プレゼン資料

高レベル放射性廃棄物処分の4W1H 2014年9月
動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)元理事・環境技術開発推進本部長 坪谷隆夫(※10)

 動燃理事であった坪谷隆夫氏のプレゼン資料(※10)にあるとおり、高速増殖炉サイクル、群分離、消滅処理(核変換)が完全に実用化した場合、HLWは高速増殖炉内で消滅処理照射体として核破砕され、わずか数百年で放射能が天然ウラン並みに影響量を軽減されてしまいます。ワンススルーの直接処分では10万年かかります。その後も減衰が続き、1万年後には直接処分法の1千万年後に相当するなど、放射能の減衰速度が概ね1000倍となります。数百年程度のHLW管理で天然ウラン以下にまで影響を下げられる、千年も人が接触出来なければ、ほぼ有害性はなくなりますので、現在の人類にとって不可能な事ではありません。しかも100%高速増殖炉サイクルが実現すれば、ウラン資源寿命は現状の80~100年が5千年以上になり、事実上無尽蔵となる。これが高速増殖炉サイクル開発に世界の原子力開発国が力を注いできた理由です。 ※10) 高レベル放射性廃棄物処分の4W1H 2014年9月/動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)元理事・環境技術開発推進本部長 坪谷隆夫  これには私も全く同感であって、商用高速増殖炉サイクルが実用化すればHLW/TRU問題は自ずと解決しますし、昭和50年代末の技術予測では2000年までに高速増殖炉サイクル、群分離、消滅処理が完成するという見込みでした。  現実には、合衆国を代表に世界の原子力開発国は、ロシアと中国を除いて商用高速増殖炉サイクルの大前提である高速増殖炉開発に失敗ないし撤退してしまいました。日本政府はずるずると計画を後退させるだけで資源を浪費していますが、もんじゅやスーパーフェニックスの失敗の経緯を見れば今世紀前半での実用化は到底不可能であり、今世紀中の実用化もきわめて怪しいです。  技術の成熟度は、政治的都合や人間の願望とは無関係のもので、時間が必要なものは当然それだけ時間がかかるのです。そもそも、もんじゅが運営費を自分で発電して稼ぐと言う理屈で原型炉としては過大な規模に、実験炉常陽と原型炉もんじゅの技術的継続性がとられず、計画が拙速であったことは、多分に政治的都合によるものです。  動燃事業団は、研究者の独立性を強く主張し、労働運動も盛んであった原研を嫌った政治家の「赤旗の立ち並ぶ原研には高速増殖炉・核燃料サイクル開発は任せられない」という強い意向によって原研とは別組織の事業団形式で設立されたことは日本原子力開発史の基本的知識ですが、結果として研究開発への政治介入が容易となり、もんじゅの破綻を代表として数々の大失敗を作り出してきた経緯があります。  やはり数々のタブーを取り払い、過去の失敗の明確化と総括を行わない限り市民の理解は得られないし、HLW問題だけでなく山積する課題の解決には至らないと思わされます。

改善が見られたNUMOのPA集会

 時間はあっという間に過ぎ、私もたくさん書いた数多くの質問カードに答える形で、終盤はかなり良好な雰囲気となり、時間を終えました。  原子力発電自体の継続がSF(使用済み燃料)とHLWの増加をもたらすのでやめるべきだという意見が多く出されましたが、それはNUMOの仕事外のことなのでどうするのか疑問でしたが、出された意見はすべてまとめてエネ庁に提出しているとのことでした。エネ庁がどう取り扱うかは分かりませんが、とにかく市民の意見が政府にわたる経路として意義があることと思います。  NUMOのPA事業は、既述のようにたいへんに評判が悪く、正直言いまして私は今回やらせや動員の実態を見に行くつもりでした。実際には、PAイベントのベテランとみられる参加者もいましたが、目立った動員と思われるものは見かけませんでしたし、対話も誠実であったと思います。おそらくこれら一連のPA集会自体が実験段階と思いますが、私は高く評価します。脱原子力の主張に対しても拒絶することはありませんでした。  一方で、この対話型PAによる成果を今後の事業にどう反映させるかは全く見えませんPA集会を行ったことを市民の理解を得たと既成事実化することだけはあってはならないと思います。すべてがぶち壊しになってしまいます。  私は、SFやHLW/TRUについては合衆国式の80年、場合によっては300年の中間管理を行い、100年単位の時間稼ぎするその間に理想的には商用高速増殖炉サイクル実用化を成功させ、次善の策として国際的枠組みの中で巨大砂漠、海洋底、南極氷床なども含めたあらゆる可能性を模索すべきと考えています。  そのためには信用を醸成することが必須であって、NUMOの事業の成否にかかわらず、今回の取り組みは有益と思います。今更感は強く持ちましたが、ここに到達したことは大きな前進ですので、元の木阿弥にして欲しくはありません。  今回は、NUMO 科学的特性マップに関する対話型全国説明会 愛媛(松山市) 会場についてその概要をお伝えしましたが、次回以降、テーブルトーク(グループ質疑)でどのような会話がなされたかを項目分けしてお伝えします。 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4シリーズPA編−−4 <取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado> まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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