ほぼ13時30分ちょうどに予定通り始まりましたが、司会のNUMO職員からはかなりの緊張を感じられました。すでに1年間の全国行脚でかなりの場数を踏んでいますが、人数が35人前後と多いためか、面が割れている伊方反対運動の市民がズラリ勢揃いのためか、よく分かりません。すぐに15分の地層処分説明DVDの上映を経て、NUMO理事の宇田剛氏とエネ庁の吉村一元氏による地層処分の説明に続きました。
この広報DVDは、内容こそ新味はありませんでしたが、NUMOが地層処分のPAに際してなにをキーワードとして重視しているのかが良い意味でたいへんによく表れており、ホームページでの公開をしてほしいものです。私には、立地自治体との共存と立地自治体への経済的利益を強く前面に出しているところに興味を引かれました。
両氏の説明から感じられるのは、原子燃料公社(原燃公社)、動燃事業団時代(※3)からのバックエンドへの楽観による60年を超える負の遺産にたいへんに苦労しているというものでした。この会場では「核燃料サイクル」という言葉がもっぱら使われており、さすが動燃事業団継承組織と感心しました。
※3)日本の核燃料サイクル・バックエンド事業は、原燃公社(1956)にはじまり、動燃事業団(1967-1998)、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構)(1998-2005)、日本原子力研究開発機構(JAEA)(2005-)と継承されているが、地層処分事業準備・実施組織としては、NUMO(2000-)が継承している。ただし動燃事業団は、1987年に地層処分の実施事業体からは外れている。
それぞれのテーブルには二名のNUMO、エネ庁職員が着席し、対話型討論が始まりました。また、討論のたたき台として大きめの付箋紙にそれぞれ質問事項を記入し、テーブル中央に張ってゆきました。これらは終了後に代表的なものが報告書の中で公開されています。(執筆時点で松山会場は報告書未公開)
私のテーブルにはNUMOの60代ぐらいの職員が二名、技術系と運営系を分担していました。
参加者は各机6~7名ほどで、私のいた机では、過去に説明会や施設見学会に何度も参加されたというご年配の女性達、脱原発運動でよく見かける弁護士さんに市民数名と私と、なかなかハードなメンバーで、うっかり出口から一番遠くに座った私は、後ろにはTVクルーに鎮座され、いざという時の逃げ道が見つからず困ってしまいました。まるで
ジャガーとピューマとコヨーテとクマに囲まれた温和しいオオアリクイの気分です。
冒頭から「
処分の方法が定まらない危険物を増やし続ける原子力発電を続けること自体が説明と矛盾している」という主張が市民側から複数、再三再四出されました。これは伊方発電所反対運動はじめ脱原発運動に共通するもので、根本的なところに溝があります。
NUMOは、地層処分の実施団体であって、原子力発電実施体でなく、核燃料サイクル実施体でもありませんので、
原子力発電の是非については管掌外ですから答えようがないはずですが、一方
で原子力発電を続ければ使用済み核燃料が増え続けますので市民の側にも理があります。
結構険悪なものがあり、温和しい私はとても困ってしまいました。
そういった中で、やはり根底には動燃時代に秘密主義且つ強引に行った幌延での事業がきわめて強い不信感をもたれる原因となっていることは質疑応答にも現れていました。また東洋町で2007年に生じた誘致を巡る対立と混乱(※4)や、大隅半島でいまも続く疑惑(※5)もあり、秘密主義と地元合意における手続きの瑕疵による信用喪失は1980年代からの40年近い宿痾(しゅくあ)といえます。
※4)
高レベル放射性廃棄物最終処分場選定をめぐる政策的課題 : 高知県東洋町の事例から考えるリスク・コミュニケーション/浜田泰弘 現代社会研究 Vol.12 pp.145-154 2014
※5) ●
“「謎のフィクサー」放射性物質の処分場誘致に暗躍” 週刊朝日2013.4.5
●
“核ゴミ処分場マップ公表 揺れる「最適地」南大隅町” HUNTER 2017.8. 1
●
“大隅半島・肝付町でくすぶる核ゴミ処分場の誘致話”HUNTER 2018.2.26
NUMOからの説明では、科学的特性マップで緑色に塗られていてもそこが必ずしも埋設好適地を示す訳でなく、まずは文献調査、実地、ボウリング調査の順で評価の上でそれぞれの段階で不的確と判断された場合、そこで話は終わるというものでした。しかし過去の原子力関連立地の経緯から、それは信用出来ないという反応が戻り、平行線に終わりました。
実際に原電敦賀、北海道電力泊など活断層の存在を著しく過小評価して立地し、福島核災害後に窮地に追い込まれている実例(※6)もあり、所謂「原子力ムラ」全体が信用を喪失しており、NUMOの対話型集会でもそれが顕著に表れているといえました。
※6)合衆国では、ボデガ湾原子力発電所(Bodega Bay Nuclear Power Plant)のように建設途中で原子炉建屋下に小規模な断層が発見されると建設中止されている。
原子力事業体は、
約束や当初の合意事項がどうであっても、国や電力、自民党が出てくると地元合意における手続きを無視して札束と棍棒で住民を殴り倒すという手法を常に行ってきたのですから、新たな合意形成にはたいへんな時間と手続きを要するでしょう。
この地元合意と手続きを軽視した結果大失敗に終わったのが合衆国ネバダ州のユッカマウンテン放射性廃棄物処分場であり、約9000億円(1ドル=100円換算)と1987年の調査地指定以来22年の歳月を経て2009年に事業中止となっています(※7)。(ただし現在も事業再開は模索されており、ライセンスも維持されているが、先行きは思わしくない。)また、英国でもカンブリア州で秘密裏に計画を進行させていたことが露見した結果、行き詰まっています。
※7)
原子力海外ニューストピックス JAEA 2009/4/22
質疑の中で、幌延と瑞浪の深地層研究センターが論じられましたが、ここでも研究所と称して埋設処分場にするのではないか、取り決めた期限を越えても居座るのではないかという強い懸念が寄せられました。
これに対し、瑞浪と幌延はJAEAの施設であって、NUMOが関与する余地はない、両施設はあくまで深地層研究所であって、最終処分埋設事業とは明確に異なっているという回答でした。一方で、日本には深地層研究の施設がこの二拠点のみであって、たいへんに貴重だ、(研究者としては)可能な限り残して欲しいという意見がNUMOの担当者からありました。またとくに幌延については、北海道の条例で最終処分場立地は不可能であって、実際に幌延町では話をしに行っても全く歓迎されない、幌延を(最終処分場として)考えていないということでした。
幌延については地元合意形成に手続きそのものから誤ってきた負の遺産が余りにも大きく、また資源としての価値はないものの天北油田が存在し(※8)、油田につきものの濃塩水、油、メタンガスが日常的にしみ出し、2013年2月には大量出水、ガス突出事故を起こしています(※9)。これは私の考えですが、幌延は地質的に全く不適格地であってHLW/TRU地層処分場の立地はあり得ない(やってはいけない)ことです。一方で研究者として深地層研究施設が実際の事業につながらなくても欲しいと言うことには同意出来ます。
この幌延からは油と濃塩水と天然ガスが、瑞浪では大量の地下水が出てきたことは、掘らなくてもある程度予想は出来たでしょうが、やはり掘ってみなければ正確には分からないことでもあります。両地点とも掘って不都合なものが大量に出てきたことは重要な知見であり、地下は政治的都合には一切応じてくれないのです。
※8)
北海道天北地方の石油地質学的研究 広岡悦郎 石油技術協会誌 No.27 Vol.6 pp.113-134 1962.10
※9) ●
”<核のごみ 漂流する処分策>幌延深地層研究センター 近づく実験期限” 河北新報 2018/11/15
●”基準外事故も公表 大量出水で幌延深地層研表明 HPなど通じ”北海道新聞朝刊2013/2/16 /”【幌延】日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(宗谷管内幌延町)で今月6日、基準値を超えるメタンガスの発生と地下水の大量流出が起きたトラブルで、同センターは15日、今後同様のケースが起きた場合はホームページと報道機関を通じて公表する考えを明らかにした。同センターはトラブルについて、7日に道や幌延町などに連絡したものの、14日まで報道機関などには公表しなかった。同センターによると、公表するかどうかは事故時の「通報連絡基準」に基づき判断している。”
●幌延は、科学的特性マップでも地下鉱脈の存在が示され、不適格地が多くを占める。現在の知見で調査すれば初期段階で候補地から除外されると思われる。(参照:
資源エネルギー庁)