トリクルダウンから「ボトムアップ」へ。活力ある経済の持続のために必要なパラダイムシフト

経済認識とアプローチの違い

 直接的に、もっとも大きな政策の違いが生じるのは、日本経済の現状に対する認識の違いからです。  安倍政権は「企業・個人による投資・消費意欲の減退に基づく、一時的な供給過剰・需要不足」と、日本経済を認識しています。だから、金融緩和で大量の資金を供給し、財政出動で需要を刺激し、企業を縛る規制を緩和すれば、再びかつてのように経済成長すると考えているのです。  他方、ボトムアップ社会の政策は「人口減少・経済成熟に伴う投資・消費環境の変化に基づく、恒常的な供給過剰・需要不足」という認識に立ちます。この認識に立てば、まずは格差を解消して本来の民間消費を回復しつつ、その間に人口減少や技術変化、気候変動に対応できる持続可能な社会システムや市場を構築・投資することで、緩やかであっても長期的に持続する経済成長をめざすことになります。  また、安倍政権は、経済成長を先にして、後で社会の課題を解決するアプローチです。経済成長を実現し、その成果を原資にして、社会の改良(課題解決)を図るものです。  ボトムアップ社会の政策のアプローチは、課題解決を先にして、それが経済成長をもたらすというものです。社会の改良(課題解決)に投資して、それを経済成長の原動力にする考え方です。  実は、安倍政権の経済認識やアプローチは、従来の人口増加時代の路線を踏襲するものです。資本主義であっても、社会主義であっても、まずは経済成長を優先し、その果実で社会を改良しました。  しかし、日本は2008年に1億2800万人でピークとなってから、有史以来初の人口減少時代に突入しました。今後、政府の目論見どおりに出生率が回復して、人口のベストシナリオが実現したとしても、大幅な人口減少は避けられません。また、2070年頃までの人口急減も避けられません。  ということは、人口増加という経済政策の大前提が逆転することになります。従来の経済理論や経済政策が通用しにくい、前例のない時代になったともいえます。  こうしたなかで「ボトムアップ社会への転換で活力ある経済の持続を実現する」とは、次のことを意味します。  ボトムアップ社会への転換とは、格差によって潜在化した個人消費を活発にする経済構造へ転換することです。活力ある経済とは、公正な市場で高い生産性とイノベーションによって企業が競い合う経済を意味します。持続を実現するとは、社会・環境の質を高める投資を政府・企業・個人が行い、長期に持続する経済活力の源泉にすることです。そして、政府の役割は、従来の効果的な財政支出・金融政策と、市場の苦手な領域(市場の失敗)の対応に加え、公正な市場のデザイン(構築・運営)にあります。

参考図書

 この提案を作成するに当たっては、様々な本や資料を参考としました。ここでは、入手しやすい本の中から、読者の皆さんの参考となると思われる本を紹介します。 明石順平『アベノミクスによろしく』インターナショナル新書 明石順平『データが語る日本財政の未来』インターナショナル新書 服部茂幸『偽りの経済政策』岩波新書 諸富徹『人口減少時代の都市』中公新書 金子勝『資本主義の克服』集英社新書 村上敦『キロワットアワー・イズ・マネー』いしずえ 野口悠紀雄『異次元緩和の終焉』日本経済新聞出版社 柴田悠『子育て支援と経済成長』朝日新書 冨山和彦『なぜローカル経済から日本は甦るのか』PHP新書 ジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』NHK出版 スティーヴン・K・ヴォ―ゲル『日本経済のマーケットデザイン』日本経済新聞出版社 リチャード・フロリダ『新クリエイティブ資本論』ダイヤモンド社  また、講演では時間の制約から、説明しきれないこともありました。ハーバービジネスオンラインに掲載した「安倍政権とは何か?そして何を目指すのか?有権者に突きつけられる選択肢」と「高度プロフェッショナル制度が日本経済を低迷させるこれだけの理由」をご覧いただければ、より深く論旨をご理解いただけます。 <文/田中信一郎 Image by 二 盧 from Pixabay > たなかしんいちろう●千葉商科大学特別客員准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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